21世紀、日本の針路⑰ 本シリーズのまとめ(下) [平和外交]
「21世紀、日本の針路」シリーズの終わりに当たり、ポイントを二回に分けて述べよう。
1.東アジア共同体の構築
日本は、対米従属から脱却し、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めたい。その第一歩は、東アジア共同体の推進である。東アジア共同体の真の目的と、目指すものは何かを考えてみよう。
(1)東アジア共同体が目指すもの
人、もの、カネの自由化を通じ、地域の競争力向上、豊かさの実現。ひいては、人権と安全が守られる社会と、戦争のない世界を実現する。
(2)政府主導のプロジェクト立ち上げ
当ブログの「東アジア共同体の歩み」で述べたように、共同体は多くの産官学の枠組みで研究され、報告されている。しかし、すでに研究段階は過ぎた。政府が本気で取り組む時期である。
(3)対中国のアプローチ
東アジア共同体の交渉において、難物は中国である。中国と交渉開始の合意ができれば、8割がた、スタートアップは完了である。日本は、中国を仮想敵とせず、交渉の本気度を態度で伝えるべきである。
(4)ASEAN+3(日中韓)で、まず、交渉しよう
日本は共同体の交渉で中国の圧力を緩和するため、インド、豪、ニュージーランドの力を借りようとして、ASEAN+6にこだわっていている。戦略ではあるが、日本の弱腰で、交渉の本格スタートを遅らせるだけである。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」である。
(5)アメリカの説得
日本が、アメリカを排除するのではなく、その支援を得ながら、アジアの平和的発展に、本気でコミットする決意を披露すれば、説得はできると思う。
アジアのことは日本と中国に任せてもらって、アメリカは、地域連合を束ねる世界政府のような組織の中枢を担ってもらうのがよい。構想について、アメリカの心ある要人への根回しは必須である。
2.世界政府の構築
アジア、EU、米州などの地域連合の上に、これらを管理するための、世界政府機能の創設を提案する。これは、国連の改革というより、世界政府機能を新しく創設し、国連組織のうち、使えるものは組み込んで利用するという構想である。世界政府の真の目的と、目指すものは何かを考えてみよう。
(1)世界政府が目指すもの
自由貿易の推進、地域連合(共同体)の統括、地球市民の人権擁護と安全保障、核兵器廃絶、恒久平和の保障である。
(2)世界政府創設の準備
難民流出問題を手掛かりにし、日本が主導して、国連内に難民流出予防検討の仕組みを作り、難民流出の原因分析や対策立案の過程を通して、世界政府創設の準備組織を立ち上げよう。
(3)世界憲法の起草
世界憲法は、国連憲章をなぞるだけでは不十分である。世界政府に必要な機能を新しく想定し、それをもとに草案を作ろう。お手本はたくさんある。
(4)世界政府の機能のデザイン
世界政府に必要な諸機能を新しくデザインし、質と量を定義しよう。世界政府、世界行政府、世界政府議会などが対象である。国連組織のうち、使えるものは組み込んで利用するという発想が必要である。
3.まとめ(筆者のコメント)
①東アジア共同体(ASEAN+日中韓)の輸出依存度は50%強、輸入依存度は60%強である。直接投資依存度も高く、流通コストは劇的に低下している。共同体推進をためらう理由はない。
②岡倉天心が「アジアは一つ」と説き、福沢諭吉が「脱亜入欧」と唱えた。今は、「親亜親欧」の時代ではないだろうか。
③超大国の横暴や、民族紛争の激化で地球は危機に瀕している。この危機を救うには、人類の勇気と英知を集めて、世界政府を樹立するしかない。
④核抑止力有用論は本当だろうか。核兵器は相互に防御不能であり、安価に、戦争をできなくしたというが、本当だろうか。テロ集団への移転や、不慮の事故対応、更新・廃棄費用などを考えると、決して安くはないと思う。代案がある。安心供与・信頼醸成に基づいた世界政府の樹立が答えである。
⑤難民流出後の対策より、流出予防が大事。世界政府の適切な対処が望まれる。
新冷戦の脅威 ①中国の覇権的な挑戦 [平和外交]
米ソ冷戦が終わったと思ったら、また、新しい米中新冷戦が始まった。世界の歴史を見ると、随所に、愚かな人間の策謀と悪あがきで、多くの人命が損なわれてきた。美しく、かけがえのない地球の滅亡まで、地球週末時計であと3分という。憂慮に耐えない。回避の策はあるのか。
1.トゥキディデスの罠
「新たな覇権国の台頭と、それに対する既存の覇権国の懸念が戦争を不可避にする」。これは、ギリシャの歴史家トゥキディデスが残した言葉で、トゥキディデスの罠と呼ばれている。
過去500年間に、こうしたケースは16回あり、うち12回で大きな戦争になったと言われている。
台頭する中国は、覇権は狙わないと言いながら、正当性が怪しい自国の権利を強く意識し、覇権を狙う気持ちを内に秘めている。一方、既存の覇権国・米国は新興国・中国の挑戦に直面して、不安になり、相手を蹴落とそうと策を練っている。これが、現在進行中の米中貿易戦争であり、軍事的緊張が高じて、下手をすると本当の戦争になりかねない。
2.中国の覇権的な挑戦
中国の覇権的な挑戦の、主な内容は下記の通りである。発展途上国なら許されても、大国となった中国には許されない。この「チャイナ・グローバリズム」に、世界がどう向き合うか問われている。
問題 |
覇権的な挑戦の内容 |
不公正な貿易ルール |
・高い関税障壁(自動車は、米の10倍) ・知的財産権の侵害(スパイや剽窃による) |
外国企業の投資制限 |
・外国企業に厄介な事業免許要件や出資比率規制を課す ・外国企業の中国進出を許す代わりに技術移転を強要 |
国内産業保護 |
・国有企業等に土地や資本を助成(競争優位狙い) ・国内企業に輸出助成や税制優遇 |
為替介入 |
・為替介入による人民元の為替調整(人民元安誘導) |
軍備拡張 |
・中国の2018年国防費は、18.4兆円、前年実績比8.1%増。日本の5倍以上。武器装備品の近代化を急速に推進。 |
南シナ海海洋進出 |
・南シナ海に人工島を七つ、うち三つには滑走路建設。 軍事基地化を進めている。 |
イラン制裁違反 |
・ZTE(中興通訊)がイラン禁輸措置に違反 |
3.まとめ(筆者コメント)
①自由貿易は相互主義で成り立つ。輸出相手国には自由貿易を求め、自国市場は関税、補助金、規制で保護するのは通らない。
②中国は、投資相手国の土地、企業は自由に購入し、技術移転を強要する。一方、自国では外国人の土地購入を認めていない。日本も、北海道などの水源地を、中国資本に乗っ取られないよう、規制を考えよう。
③中国は、外国に自国の労働者を大量に送り込み、相手国の雇用を奪うが、自国には移民を認めていない。日本にも、いくつかチャイナタウンができているが、節度ある移民受け入れが望ましい。
④中国崩壊論が良く聞かれる。中国崩壊待望論というべきかもしれないが、品性が透けて見える。ここは、向こう三軒両隣の精神で、おせっかいを焼くべきではないか。虎穴に入って、大きな虎児を調教するくらいの気概を持とう。
新冷戦の脅威 ②米中バトル [平和外交]
米ソ冷戦が終わったと思ったら、また、新しい米中新冷戦が始まった。前回のブログで述べた、中国の覇権的な挑戦に対し、米国から厳しい反撃が開始された。米中バトルの現状を見てみよう。
1.米中の貿易バトル
今年3月、米国は、鉄鋼25%、アルミニューム10%の関税措置を発動した。相手は、中国、日本など、多くの国が対象となった。これとは別に、中国の対米貿易黒字が突出して大きいことから、下記のような米中貿易戦争が行われている。
2018年 |
米国の関税措置 |
額/億ドル |
中国の対抗措置 |
額/億ドル |
7月6日 |
半導体などに25% |
340 |
2回に分けて 報復関税25% |
500 |
8月23日 |
化学品など 25% |
160 |
||
9月24日 |
日用品など 10% |
2,000 |
液化天然ガスなど |
600 |
合計 |
|
2,500 |
|
1,100 |
注)米国は、中国が報復すれば、制裁をさらに2,670億ドル追加するとしている。
2.米中の安全保障に関わるバトル
米中の安全保障などに関わる、最近の主な紛争は下表のとおりである。
項目 |
中国の措置 |
米国の措置 |
南シナ海 |
中国の駆逐艦が、米駆逐艦を追跡し、40mに異常接近 |
ペンス副大統領が抗議声明発表。 航行の自由作戦を続行。 |
南・東シナ海 |
米強襲揚陸艦「ワスプ」の香港寄港を拒否 |
米戦略爆撃機B52、南・東シナ海を飛行 |
ZTE制裁 |
ZTE(中興通訊)が製品や技術のイランへの禁輸措置に違反 |
ZTEとの商取引を7年間禁止 (ZTEは8千億ドル減収) |
プロパ ガンダ |
中国メディア企業が、農業州であるアイオアの新聞に下記広告を出した。「米中貿易が相互利益をもたらす」 |
米国の選挙を操作する意図を持った、プロパガンダ広告と認定。 制裁検討中。 |
3.まとめ(筆者コメント)
①日米首脳会談(9月25日)の共同声明で、「非市場型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。」と発表された。
対中貿易戦争に日本も参加せよと要求されたわけで、これからの対応が難しい。
②米中バトルで、いま、日本外交にまたとないチャンス到来。米中の調整役を買って出よう。
③日中は、何でも言える親友の関係になろう。
④日米は、時間をかけて、遠い親戚の叔父さんと甥のような関係を築いていこう。
追伸:軽い脳梗塞で、左手が効かなくなり、2週間入院し、今はほぼ回復しました。
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