核兵器禁止条約 ①日本政府の対応 [平和外交]
核兵器を法的に禁止する条約の交渉会議が、およそ115か国が参加して、国連本部で開催され、7月7日までに採択される見込みである。そこで、禁止条約の概要、日本の対応、賛否の論点整理、筆者の提案について、3回に分けて述べよう。
1.核兵器禁止条約の概要
草案は、核兵器は国際人道法に違反するとして、核兵器の製造、保管、実験、使用を禁じている。しかし、核保有国や、核の傘に依存する日本や大半のNATO加盟国は、核軍縮策としては現実的でないとして、反対し、交渉に参加していない。一方、北朝鮮は交渉に参加していて、賛成すると思われる。皮肉な結果である。
2.日本政府の立場と反対する理由
日本政府は、核兵器の非人道性に対する正しい認識を持ち、「核兵器のない世界」を目指しているが、今回の核兵器禁止条約交渉には、核保有国と核の傘に入っている国の参加がなく、この交渉を進めると、核兵器保有国と非保有国の対立を深めるだけで、核廃絶にはつながらないと考えて、条約に反対することになった。唯一の被爆国である日本が、この禁止条約に参加せず、反対するのは残念だ。
コラム 核廃絶に向けた、その他の取り組み
核廃絶に向けた国連の主な取り組みとして、下記がある。
2016年12月に日本が、アメリカを含む109か国を代表して、国連に提出した。アメリカを引き入れられたのは日本の手柄である。採決結果は賛成167、反対4(中国、北朝鮮、ロシア、シリア)、棄権16であった。
核兵器禁止条約 ②賛否の論点整理 [平和外交]
核兵器禁止条約 ②賛否の論点整理
核兵器を法的に禁止する条約の交渉会議が、およそ115か国が参加して、国連本部で開催され、7月7日までに採択される見込みである。前回、禁止条約の概要、日本の対応について述べた。
今回は、禁止条約に対する賛否の論点整理をし、次回、筆者の提案を述べよう。
1.核兵器禁止条約に反対する日本政府や国民の主張
●核抑止力は必要
核兵器保有国は核戦争の抑止力として手放せない。
日本にとって、核の傘による拡大抑止力は手放せない
隠れて核兵器や生物兵器を保有しようとする、ならず者国家を利する。
●交渉会議の進め方、タイミングの問題
核保有国と核の傘に入る多くの国が交渉会議に参加していない。
この条約では、保有国と非保有国の対立を深めるだけで、核廃絶にはつながらない
核軍縮策としては現実的でない、国際社会が不安定化する
核実験を禁止しても、コンピューターシミュレーションによる実験の検証は困難
国連の力が弱い現在、軍事産業の発言力を抑えるのは至難。
●反対する日本の一部国民(ネトウヨ含む)の主張
核兵器禁止は日本政府ではなく、米ロ中国や北に言え
日本政府批判はナンセンス、反日マスゴミのねつ造
無知なお花畑の芸能人(渡辺謙さん)はよく勉強してから言え
核の傘がなければ、中国が好き放題をする
泥棒を禁止して、泥棒がいなくなるか
北朝鮮にどう対応するのか、現実をわきまえろ
2.核兵器禁止条約に賛成する国や日本国民の主張
●核抑止力は無効
核兵器の破壊力を盾に、国益を守ろうとするのは間違い。
先制不使用の原則があれば、核兵器が戦争に使われることはない。核抑止力は無用になる。
核保有国は先制不使用を宣言すべきだ(意外なことに、中国だけが容認している。)
●核兵器は絶対悪、人道法違反
核兵器は必要悪でなく絶対悪。核では世界を救えない。
核兵器は安全保障の側面より、人類壊滅被害を重視すべきだ。
生物化学兵器、対人地雷、クラスター弾は禁止条約が発効済。核兵器だけに反対は不当。
テロに核兵器がわたるおそれがあり、早急な廃絶が必要。
●賛成する日本国民(被爆者を含む)の主張
被爆者の気持ちを理解できない人が多い。核廃絶国際署名 296万筆。
核を持ちたい、核の傘に縋りたい政治家が多すぎる。
政治家に、北朝鮮の核開発を非難する資格があるか。
交渉会議に参加するなかで、英知を集めた禁止策の構想を待望している。
広島出身の岸田外相は参加派だが、官邸(安倍首相)に屈したようで、残念だ。
コラム 世界の核兵器数 2014年現在9,920
米4,760、ロシア4,300、英225、仏300、中国250、インド110、パキスタン120、イスラエル80、北朝鮮10未満 (1980年代には世界中で最大64,099あった。)
あけましておめでとうございます。 [平和外交]
ローマ法王が、
長崎原爆の後に撮影された写真・「焼き場に立つ少年」を、
カードに載せ、コメントをつけて、昨年末に配布しました。
核廃絶への強い意志が込められていると思います。
平和は「対話」と「ともに歩む心」によって実現するとも言われました。
日本が、アジアに平和をもたらす外交に力を注ぐことは、
ローマ法王の教えにもかなうと思います。
2018年は、アジアの平和と、核廃絶に向かって、前進する年にしたいですね。
焼き場で順番を待っている少年
憲法改正の論点 ④ 「生かす憲法」 [平和外交]
いま、憲法改正論議が盛んである。憲法改正の賛否の論点を何回かに分けて考えてみよう。
1.「生かす憲法」のための日本の戦略的平和外交
日本国憲法は、 世界初の理想の憲法だから、「生かす憲法」に徹するべき。東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、戦略的平和外交によって、安全保障環境の方を、憲法に近づける努力をするべきである。下記はその構想の一部である。
図:「生かす憲法」のための、日本の戦略的平和外交
相手国 |
平和外交戦略 |
期待成果 |
中国 |
●安倍首相、歴史修正主義決別の意思表示 ●安倍首相、南京慰霊訪問 ●中国の「一帯一路」構想に参加表明 ●AIIB加入とADBとの連携強化を表明(注) ●アジア相互信頼醸成措置会議(CICA)に、正式参加表明 ●アジア地域連合(共同体)のキックオフ宣言 |
戦略的互恵 関係構築 軍拡競争緩和 地域連合構築 中国へ日本の関与増大 民間交流促進 |
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アメリカ |
●対米、自由貿易協定/経済連携協定の維持 ●日米地位協定の見直しの提起 ●日米同盟の見直しの働きかけ ●国連改革主導を要請 ●世界政府的、問題解決リーダー就任要請 |
経済連携維持 対米独立 軍事基地漸進的撤去 貧困撲滅 世界平和 |
(注)AIIB:中国主導のアジアインフラ投資銀行、ADB:日米主導のアジア開発銀行
2.日本の戦略的平和外交のための、キーポイント
①安倍首相の歴史修正主義決別
安倍首相は、過去に、「侵略の定義は定まっていない」、「植民地で良いこともした」などの発言があった。衣の下に鎧を隠すような態度では、東アジアで、外交をさせてもらえない。歴史修正主義的な言動は封印すべきだ。(安倍さんでは無理かも)
②日米同盟の見直し
日本は、過去70年間、何回かあった日米同盟見直しのチャンスを逃してきた。安倍政権は、日米同盟に縋りついているが、同盟が完全に機能する保証はない。
この辺で、戦略を練り、勇気を振り絞って、日米同盟見直しの働きかけをすべきである。近隣諸国の、日本を見る目ががらりと変わる。日本が生まれ変わる契機になると思う。
「案ずるより産むがやすし」である。
3.まとめ(筆者コメント)
① 憲法改正を考える前に、上図のような、平和憲法の理念を「生かす」外交をしよう。
② 中国敵視・日米同盟一辺倒の外交が、安全保障問題の大部分である。アジアに根を張り、地域のことは地域で解決する、戦略的平和外交に転換しよう。
③ 自由と民主主義を至上とする価値観外交はよいが、固執はダメ。政治体制が異なる国とも条件なしに外交をすべきである。体制を批判し、転換するのは、その国の民である自民党改憲4項目の論点 ① 自衛隊明記 [平和外交]
自民党は、憲法改正のテーマを、自衛隊明記、緊急事態条項、教育無償化、合区解消の4つに絞り、2020年までに改憲を実現するという。各項目の論点を整理し、是非を考えてみよう。
1.自衛隊明記改正案の内容
自民党の憲法改正推進本部は、9条改正について7つの条文案を掲げた。そのうち、安倍首相が提案した9条1、2項を残し自衛隊を明記する下記が最有力案である。
9条2 我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。 ②自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。 |
特徴:①9条とは別条の、9条2を立てること。②「必要最小限度の実力組織」の文言を削除。
2.自衛隊明記の賛成論と反対論
賛否の論点 |
自衛隊明記に賛成(狙い) |
自衛隊明記に反対 |
隊員の士気 |
多くの憲法学者が違憲という自衛隊の隊員に頑張れとはいえない。自衛隊明記で、士気向上。 たとえ国民投票で否決されても、自衛隊の合憲性は変わらない |
自衛権は国際的に認められており、自衛隊は合憲で、国民に愛されている。 逆に、自衛隊の役割変更で、入隊者の減少や、徴兵制復活が心配。 力を誇示し、敵を作って支配したい安倍首相のもとでは、反対 |
加憲の効果 |
9条1,2項を残し、自衛隊を明記する加憲は、公明党にも、国民にも受け入れられやすい。 (狙い)安保法制を合法化し、集団的自衛権行使の道が開ける |
9条改憲で、集団的自衛権行使が現実になる。近隣諸国から痛くもない腹を探られ、緊張を高め、戦争の種をまくことになる。明記で任務や権限が変わらないなら、明記の必要はない |
条文の評価 |
自衛隊を明記してもその任務や権限は変わらない。9条の政府解釈は1ミリも動かさない。 文民統制を、十分に条文に盛り込んだ |
当初あった、「必要最小限度の実力組織」の文言は削除された。集団的自衛権が大手を振って行使され、海外でも戦争ができる軍隊になる恐れがある。 条文に文民統制や国会承認の条件を付記しても、いまの安倍政権の国会運営を見ていると、信用はできない。 |
4.まとめ(筆者コメント)
①憲法は権力を縛るだけでなく、その国が大事にする基本的価値を内外に表明し、理想を語るものだ。成行きの現実に合わせて、簡単に理想を捨てるのは情けない。
②自衛隊を明記すると、「戦力保持」の宣言となり、現行9条2項の「戦力不保持」が空文化し、日本は平和憲法の国ではなくなってしまう。
③軍隊の制御に失敗し、戦争で辛酸をなめた日本人は、「戦争はダメ」、「わずかでも戦争に近ずく政策はダメ」という思いが強い。21世紀、日本の針路 ①「国のかたち」の変遷 [平和外交]
1.「国のかたち」の過去現在未来
「国のかたち」は、簡単に表わすと下図の通りになると思う。詳細は後続の当ブログで述べる。
①戦中(1931~1945)の「国のかたち」
満州事変から敗戦までの戦中の「国のかたち」は、下図で、天皇は一応元首であったが、政権との間に軍部が割り込み、戦争に邁進した。
②戦後(1945~2018)の「国のかたち」
敗戦で進駐してきた占領軍が、国体にとって代わり、米の軍産複合体が支配する体制となった。天皇は象徴天皇となり後景に引いた。
講和条約締結後も、アメリカは、日米安全保障条約の名のもとに、陰に陽に、日本の支配をつづけた。
1991年のソ連崩壊後も、日本は、このいわゆる「永続敗戦」のレジームから抜け出そうとせず、不名誉な対米従属を続けている。
③未来(2018~)の「国のかたち」
日本は地政学的にみてもアジアの一員である。上から目線をやめて、アジアの国々と地域連合を形成し、アジアのことはアジアで解決する平和外交をすべきである。国連の役割の見直しも必須。
戦中 1931~1945 |
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国体 (天皇) |
→ |
軍部 |
→ |
政権 |
→ |
国民 |
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戦後 1945~2018 |
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国体 (米国) |
→ |
米・軍産複合体(注) |
→ |
政権 |
← |
国民 |
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未来 2018~ |
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国連 |
→ |
東アジア共同体 |
→ |
政権 |
← |
国民 |
(注)ジャパンハンドラーともいわれ、日本の官僚を従えて、日本を支配している。
← :矢印の向きは国民主権の意味だが、権力の乱用もあって、十分ではなかった。
2.まとめ(筆者のコメント)
①国体の復活を目論む勢力が増えている。象徴天皇制の下では、天皇は国威発揚の象徴ではなく、平和日本の象徴であるべきで、天皇の政治利用をすべきではない。
②中国の海洋進出に対抗して、「自由で開かれたアジア太平洋」が唱導されている。中国も巻き込んで、アジア太平洋を平和の海にするため、日本は率先して牽引役を買って出るべきである。
③日本は、対米従属一辺倒の外交でなく、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めてほしい。
21世紀の外交戦略のポイントは、アジア連合(共同体)の推進であり、それらの地域連合を統合する国連の改革である。
21世紀、日本の針路 ②15年戦争期は国体崩壊期 [平和外交]
満州事変から敗戦までの、いわゆる15年戦争中(1931~1945)の「国のかたち」は、簡単に表わすと下図の通りになると思う。この図は、前回の当ブログに掲載した図の一部である。
天皇は一応元首であったが、政権との間に軍部が割り込み、戦争に邁進した。主要な出来事の歴史的な意味を考えてみよう。
戦中 1931~1945 |
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国体 (天皇) |
→ |
軍部 |
→ |
政権 |
→ |
国民 |
1.満州事変(1931年)
日露戦争に日本が勝つと、アメリカは日本を警戒し、支那大陸への進出を邪魔するようになった。1921年のワシントン会議で、①日本の太平洋進出を抑える(主力戦艦の保有比率を米英日5:5:3とする)。②日英同盟終了。③支那における日本の特殊権益否認(門戸開放)を取り決めた。
1929年の世界大恐慌を契機に、米英がブロック経済化を進め、生糸などの貿易に頼る日本は困窮した。
この、ワシントン体制のもとで、日本は孤立を深め、満州事変につながってゆく。
1931年9月18日、奉天の北方8キロにある柳条溝において、満鉄の線路が爆破された。関東軍は張学良軍の仕業として、攻撃し敗走させ、2か月で全満州を占領した。日本は、満州地方の安全を維持するため、清国皇帝の「溥儀」を迎えて満州国を作った。
しかし、満州事変の実態は、陸軍参謀本部作戦部長・石原莞爾が独断で起こした戦争であった。外交の優等生であった日本の信用は地に落ち、日本の将来を狂わせた。
国際連盟のリットン報告書で、「合法的な自衛の措置とは認められない」、「満州は中国の主権下にあることを認めよ」と裁定された。
2.支那事変(日中戦争、1937年)
満州事変から盧溝橋事件までの6年間は、支那にとって抗日戦争の準備期間といえる。蒋介石の国民政府軍と戦い、壊滅寸前となった共産党が、国民政府軍と日本軍を戦わせて漁夫に利を得ようと、反日・抗日を仕掛けた。
反日運動はエスカレートし、日本製品の不買だけでなく、「日本人を見つけしだい殺せ」と書かれたビラなどがまかれ、実際日本人へのテロ事件が発生するようになり、日本人の新聞記者や店主が惨殺された。
1937年7月7日、盧溝橋付近に駐屯していた日本軍(1900年の北清事変の結果置くことになった支那駐屯軍)に、共産軍が銃撃を行なった。不拡大方針を取っていた日本は、数度のだまし討ちにあい、7月28日、ついに開戦を通告した。3度の和平工作に失敗し1945年の終戦まで戦闘は続いた。
支那事変は、国民政府軍に入り込んだ共産党分子が、ソ連・コミンテルンの指示に従って、国民政府軍をけしかけ、日本を戦争に巻き込む、共産党の謀略であった。
3.大東亜戦争(1941~1945の太平洋戦争)
アメリカは、支那の門戸開放を執拗に求めた。日本は、ABCDの包囲網に囲まれ、石油、鉄鋼禁輸、資産凍結に苦しみ、1941年12月8日、真珠湾攻撃をもって大東亜戦争の戦端が開かれた。
大東亜戦争の目的は、アジアの国々が団結して、ともに繁栄するための「大東亜新秩序建設」である。当時、欧米はアジア侵略の野望に燃え、英米を中心に侵略の機会を狙っていた。大東亜戦争は、欧米の侵略からアジアを守るために、民族の命運を賭けた戦争であった。
2.まとめ(筆者のコメント)
①満州事変は、満州を支那から切り離すとして、参謀の石原莞爾が独断で起こした戦争であった。軍部の独走を許し、外交不全に陥った若槻礼次郎政権の罪は重い。
②支那事変では、国民政府軍と共産党軍がせめぎあう支那で、日本は謀略に巻き込まれ、火中の栗を拾った。支那駐屯軍の引き上げまで考えた戦略が欲しかった。
③アジアの解放を掲げるなら、支那、朝鮮との連携が必須。連携に失敗した段階で、戦略を転換し、大東亜戦争を回避すべきであった。終戦プランもなく、戦争の終わらせ方を知らなかった。ガキの喧嘩と言われても仕方がない。
21世紀、日本の針路 ③占領期の「国のかたち」 [平和外交]
太平洋戦争の敗戦で進駐してきた占領軍(実質はアメリカ)が、国体にとって代わり、米の軍産複合体が支配する体制となった。天皇は象徴天皇となり、人間宣言をして後景に引いた。
占領期の「国のかたち」は、簡単に表わすと下図の通りになると思う。この図は、前回の当ブログに掲載した図の一部である。
占領期の主要な出来事の歴史的な意味を考えてみよう。
戦後 1945~2018 |
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国体 (米国) |
→ |
米・軍産複合体(注) |
→ |
政権 |
← |
国民 |
1.ポツダム宣言受諾
1945年7月27日に日本に、無条件降伏を勧告する「ポツダム宣言」が届いた。ソ連に仲介を依頼し、返事を待って、宣言を黙殺していたが、皮肉なことに、ソ連は、すでに、中立条約を破棄して日本攻撃の準備をしていた。
天皇の地位をめぐる駆け引きで、時間を無駄に費やしたが、8月14日受諾を通達し、翌日玉音放送で国民に知らせた。陸軍の暴発を恐れて、鈴木内閣は決断できず、天皇に決定を丸投げした。
2.アメリカの占領政策
占領軍の目的は、日本が再びアメリカの脅威にならないよう、徹底的に日本という国の弱体化を図ることであった。まず、日本軍の武装解除をした。日本人の精神的な武装解除として、WGIP(戦争罪悪感周知徹底計画)と検閲(言論統制)を実施した。学校教育、なかでも歴史教育に介入し、神話も、皇室も、戦争の英雄たちも教えなくなった。
また、GHQは戦後すぐに、軍国主義、国家主義の培養に加担した、国家神道、神社神道に対し、日本政府の関与を禁止した。これが、神道指令である。
3.東京裁判
1946年5月3日に開廷され、判決が出るまで2年6ヶ月もの歳月を要した。
検察側の起訴状の内容は、「東條英機元首相以下28人の戦犯は共同謀議を行っていた。目的は侵略による世界支配である。その目的を果たすために、戦争犯罪のほかに、平和に対する罪、人道に対する罪を犯した」とするもの。「日本は世界征服をたくらみ、アジア各国を侵略していった」というのだ。
判決では25人が「A級戦犯」にされ、東条英機など7人が死刑となった。
現在、国際法学者の間で、この「裁判」は完全に否定され、不法なものであったという主張がある。裁判に加わった多くの判事も帰国後、裁判の不当性、違法性を証言しているという。
日本でも、この裁判は日本を侵略者に仕立て上げる連合国・アメリカの戦略の一環に過ぎなかったという主張と、この裁判を潔く受け入れて、戦後再出発できたと考える(いわゆる東京裁判史観)人々がいる。
当時のアジア情勢を見るとき、見落としてはならないことがある。それは、ロシア革命でソ連が誕生し、共産主義が急速に拡大して、アジアに向かって南下したことである。満州事変、ひいては太平洋戦争の一因ともなったが、裁判ではあまり考慮されなかった。戦勝国も、朝鮮戦争が起きて初めて、共産主義の脅威に気づき、日本バッシングを緩めた経緯がある。
4.まとめ(筆者のコメント)
①味方でもないソ連の仲介に頼り、時間を無駄にした戦争指導者は、まさに、ピエロだ。この間、多数の国民の尊い命が犠牲になった。
②アメリカの占領政策を批判する人は多いが、負ける戦争をしたのが悪い。歴史は勝者の記録である。
③東京裁判は、裁くべき根拠法がなかったというが、恨み節をうなっていても仕方がない。未来志向で再出発を図ったのは正解。
21世紀、日本の針路 ④経済成長期の「国のかたち」 [平和外交]
講和条約締結後、経済成長至上主義に舵を切った日本ではあったが、アメリカは、日米安全保障条約の名のもとに、軍産複合体が支配する体制を取り、陰に陽に、日本の支配をつづけた。
経済成長期の「国のかたち」は、簡単に表わすと下図の通りになると思う。この図は、3回前の当ブログに掲載した図の一部である。
経済成長期の主要な出来事の歴史的な意味を考えてみよう。
戦後 1945~2018 |
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国体 (米国) |
→ |
米・軍産複合体(注) |
→ |
政権 |
← |
国民 |
(注)ジャパンハンドラーともいわれ、日本の官僚を従えて、日本を支配している。
← :矢印の向きは国民主権の意味だが、権力の乱用もあって、十分ではなかった。
1.サンフランシスコ講和条約
1951年9月8日に、第2次世界大戦終結のため、講和条約が日本と連合国48ヶ国との間に結ばれた。日本が東京裁判で、「満州は共産主義とソ連を押し止める砦」とする主張が理解され、講和条約交渉が一気に進んだ。
冷戦がすでに始まっていたため、ソ連は講和条約に調印していない。日本の左翼は、スターリンの意をくんで、ソ連を含む全面講和論を主張し、条約締結に反対した。
アメリカをはじめ、交戦国すべてが日本からの賠償を放棄した。支那(中華民国)も1年後にしぶしぶだったが賠償を放棄した。日本が賠償したのは、戦場になり多大な迷惑をかけたフィリピンやインドネシアなどのみであった。講和条約締結の際、アメリカ側が課した条件は、日米安全保障条約の同時締結と、もう一つは東京裁判の判決の遵守であった。
1951年9月8日に、サンフランシスコ講和条約と同時に、日本とアメリカの間に安全保障条約が結ばれた。アメリカが、相手国に軍事保護を与えることを約した史上唯一の条約である。
この安保条約は、吉田茂首相が発案した形をとっており、日本がお願いして、日本とその周辺にアメリカ軍の駐留を認めるという体裁をとっており、期限も決められていない。
実は、条約締結前の1951年1月に、ダレス米講和特使が来日し、朝鮮戦争を念頭に、吉田首相に日本の再軍備を要求している。マッカーサーも極東の安全保障に日本はもっと寄与すべきだという考えを示していたという。
ところが、吉田首相は、軍事的・外交的にアメリカに従属するという占領期と変わらない「国のかたち」を選び、日本が真に独立国として再出発する好機を逃した。
安保条約は、1960年、70年と、改定のたびに大規模な反対運動がおこったが、大転換は起こらなかった。
3.経済面でのアメリカの支配
日本は、軍事を捨てて経済に専念した結果、高度経済成長(1955~72)、安定成長(1973~86)バブル景気(1986/12月~91/2月)バブル崩壊(1991/3月~93/10月)を経験した。
この間、アメリカは、国際収支と財政の赤字(双子の赤字)に苦しんでいた。1985年9月、先進5か国に対し、貿易不均衡是正のため、割高な為替レートの是正を迫った。ドル円レートは、当時の1ドル235円が、1年少々で120円まで下落し、日本は、いわゆる円高不況に見舞われた。
中曽根首相の時(1986年頃)も、経済構造協議と称して、日本はアメリカの要求をのまされてきた。アメリカ従属の痕跡は、枚挙にいとまがない。
4.まとめ(筆者のコメント)
①1950年に朝鮮戦争が勃発した。日本の共産化を防ぐ意味で、有利な講和が結ばれてよかった。
②吉田首相がアメリカ従属の道を選んだのは、戦争を憎み、憲法九条の平和を渇望する国民の意をくんだものと思われる。
③経済成長期にも、米・軍産複合体の支配は続いたが、そろそろ年貢の納め時である。
21世紀、日本の針路 ⑥目指すべき「国のかたち」 [平和外交]
トランプ大統領の登場以来、世界は、自由貿易から保護貿易へ、多国間安全保障協力から一国主義への流れがやまない。アメリカは世界の警察をやめるという。
ならば、日本が、未来に向かって目指すべき「国のかたち」はどうあるべきか。簡単に表わすと下図の通りになると思う。この図は、このシリーズの初回に掲載した図の一部である。
ポイントは下記の通りである。詳細は後続の記事で述べる。
未来 2018~ |
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国連 |
→ |
東アジア共同体 |
→ |
政権 |
← |
国民 |
1.東アジア共同体
日本は地政学的にみてもアジアの一員である。日本は、アジアの国々と地域連合を形成し、アジアのことはアジアで解決する平和外交をすべきである。
アジア連合(共同体)推進の第一歩は、東アジア共同体の構築である。
2.国際連合(国連)の役割と改革
現在、国連は全く機能していない。73年前の戦勝5か国が常任理事国となって、やりたい放題をしているだけ。地球を平和な楽園にするため、国連の役割を見直し、再構築すべきである。日本は、平和国家のブランドを活かして、関係国を糾合し、けん引役を果たしたい。
3.まとめ(筆者のコメント)
①地政学的にみて、日本は海洋国家で、中国は大陸国家と言われている。「海洋国家と大陸国家は違いが大きすぎて、永遠に分かり合えない」と主張し、対立を煽る嫌中派の人たちが多い。
利益を分かち合う心さえあれば、障害は克服できると思う。
②中国の海洋進出に対抗して、「自由で開かれたアジア太平洋」が唱導されている。中国も巻き込んで、アジア太平洋を平和の海にするため、日本は率先して牽引役を買って出るべきである。
③破天荒なトランプ大統領の言動を見ていると、アジア連合や、国連改革にとって、チャンス到来に見える。彼の任期中に2,3歩前進したいものだ。
21世紀、日本の針路 ⑦東アジア共同体の歩み [平和外交]
日本は、対米従属一辺倒の外交でなく、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めてほしい。21世紀の外交戦略の第一歩は、東アジア共同体の推進である。その歩みをたどってみよう。
1.樋口レポートの轍を踏むな
冷戦後の世界情勢の変化を先取りして、1994年に細川元首相が、防衛問題懇談会を立ち上げた。座長はアサヒビール会長(当時)で、「日本の安全保障と防衛力のあり方」(通称樋口レポート)が作成された。
樋口レポートの核心は「多角的安全保障協力=共同体の促進」であったが、米の戦略と一致せずつぶされた。日本は、樋口レポートの轍を踏まないよう、この経験を活かさなければならない。
2.東アジア地域協力(ASEAN+3)の動き
1999年11月、ASEAN+3の首脳会議において、「東アジアにおける協力に関する共同声明」が採択された。これは、経済、社会、政治、安全保障に至る、包括的な協力の枠組みに言及したもの。
その後、中国が「中国・ASEANパートナーシップ行動計画」を発表し、域内の関税撤廃を進めた。
日本は、対米・対欧関係重視の立場から消極姿勢を取っていたが、2002年に、小泉元首相が演説で、ASEAN+3にオーストラリア、ニュージーランドを加えた共同体を提唱し、東アジアを「共に歩み共に進むコミュニティー」とする構想を打ち出した。
2005年より、ASEANN+5にインドを加えた16か国による「東アジアサミット」(EAS)を2年に一回開催することとなった。2011年から米ロも参加。
3.鳩山元総理による「東アジア共同体」構想の経緯
元民主党の鳩山元総理は、2009年9月の総理就任直前に、ニューヨークタイムズ紙に「日本の新しい道」という投稿記事で、経済・安保のアメリカ主導を批判し、日本は東アジアを軸に考えると主張し、「東アジア共同体」構想を提唱した。欧米から手厳しい批判を浴び、東アジア共同体構想も崩壊した経緯がある。
その後、鳩山元総理は、東アジア共同体研究所を立ち上げて、フォローしている。
4.ASEAN共同体の発足
ASEAN共同体(東南アジア諸国連合10か国)が2015年12月に発足した。「経済」、「政治・安全保障」、「社会・文化」の三つがテーマである。
「経済」のうち「モノ」の移動については、2018年までに域内の関税を原則ゼロにするという。「カネ」、「ヒト」の移動や、他のテーマについては検討中である。
日中韓で同様の組織ができれば、東アジア共同体(ASEAN+3)が実現する。
5.アジア太平洋広域経済圏セミナー(2017年6月)
ジェトロと米・戦略国際問題研究所(CSIS)共催のセミナーが、ワシントンDCで開かれた。テーマは、「アジア太平洋地域の経済統合と日米の役割」で、日米の産学関係者が130名出席した。2004年以降13回目の開催という。東アジア共同体の構築には、アメリカの対応が重要で、注視が必要である。
6.李克強中国首相 東アジア共同体に言及
2018年5月に来日した李克強中国首相が、「中日平和友好事業の再出航を」を寄稿した。
要約すると、「日中には、自由貿易とルールに基づく多国間貿易を守り、東アジア共同体の構築と地域の一体化のプロセスを推し進め、地域の持続的かつ安定的な経済成長の極を作り出す責任がある。歴史を鑑(かがみ)とし、未来に向かおう」と述べた。
7.まとめ(筆者のコメント)
①鳩山元総理による「東アジア共同体」構想は、アイデアは良いのに、戦略も根まわしもなく、心無い言動が悔やまれる。
②中日韓自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が、現在、精力的に進められているが、これらは、東アジア共同体構築に先行し、補完する活動と期待できる。
③東アジアの共同体は、モノ、カネの移動(経済連携)を優先目標にすべきで、人の移動の自由化や通貨の統合については、時間をかけて、慎重にした方が良いと思う。21世紀、日本の針路 ⑧アジア共同体の推進支援組織 [平和外交]
日本は、対米従属から脱却し、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めたい。その第一歩は、東アジア共同体の推進である。東アジア共同体を推進する組織と、関連する組織を紹介しよう。
1.ASEAN+3(日中韓)首脳会議
1997年のアジア通貨危機を契機に、ASEAN30周年首脳会議に、日中韓首脳が招待される形で始まった。金融、食料安全保障など、様々な分野で実務協力が進展し、2017年に20周年を迎えた。
東アジア共同体に一番近い組織で、産学官の支援組織を含めると、下図の構成になる。
2.東アジア首脳会議(EAS) (ASEAN+3+印、豪、ニュージーランド)
ASEAN+6の首脳が参加して、2005年12月に発足。エネルギー、金融、教育、感染症対策、防災などを主要テーマに、2年に一回開催することとなった。2011年から米ロも参加。
3.アジア太平洋経済協力(APEC)
1989年に、ASEAN6か国に、韓国、日本、ニュージーランド、豪、米、カナダの12か国で発足した経済協力機構。その後、中国、香港、台湾、メキシコ、チリ、パプアニューギニア、ペルー、ベトナム、ロシアを加えて21か国・地域となった。
香港、台湾は国ではなく、中国に配慮して、非公式フォーラムとされているが、人口で40%以上、GDPで60%弱、貿易額で50%弱の巨大な機構である。
4.環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)
太平洋を取り巻く国々で、自由で開かれた貿易を実現する協定である。米が離脱したため、現在、カナダ、豪、マレーシア、ベトナム、メキシコ、ペルー、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、日本の11か国で協定成立を目指している。
関税が撤廃されて、日本の輸出が増える一方、農家が打撃を受ける可能性がある。また、中国を蚊帳の外に置こうとする意図が見える。
5.まとめ(筆者のコメント)
①最近のASEAN+3首脳会議で、安倍首相は、「法の支配や民主主義といった価値を共有するパートナーとして統合を深めることが重要」と発言。東アジア共同体は、価値観の異なる国々も包容する共同体であるべきで、出だしから間違っている。
②2項で述べたASEAN+6は、日本の思惑で、日中韓の他に、印、豪、ニュージーランドを仲間に引き入れたもの。中国の重さを他国の力を借りて軽くする意図。戦略ではあるが、腰が引けている証拠。
③東アジア首脳会議に2011年から米ロも参加している。東アジア共同体から米ロを排除するのでなく、アドバイザーのような形で、上手に関与させるのが良い。
21世紀、日本の針路 ⑨東アジア共同体の理念 [平和外交]
日本は、対米従属から脱却し、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めたい。その第一歩は、東アジア共同体の推進である。東アジア共同体の真の目的と、目指すものは何かを考えてみよう。
下図は、このシリーズの初回に掲載した図の一部である。
未来 2018~ |
|
国連 |
→ |
東アジア共同体 |
→ |
政権 |
← |
国民 |
1.東アジア共同体が目指すもの
東アジア共同体のビジョンや戦略目標は、下表のとおりまとめることができると思う。
NO |
目指すもの |
内容 |
1 |
人、もの、カネの地域内移動の自由化を通じて、地域協力体制を作る。 |
人(特に熟練工、商用訪問者)の移動の自由化、 ものやサービスの関税撤廃による流通の自由化、 カネ(金融や投資)の自由化を通じて、地域協力を進め、 相互に利益を分かち合う。 |
2 |
地域の競争力を向上し、豊かさを実現する。 |
交通運輸、エネルギー、情報通信などのインフラ投資を充実し、イノベーションを促進して、単一市場としての機能を向上し、経済的豊かさを実現する。 知的財産権保護や消費者保護も進める。 |
3 |
人権と安全が守られる社会を実現する。 |
官民連携により、中小企業を育成し、経済格差を是正し、人権と安全が守られる社会を実現する。安全保障には、感染症やテロ対策等の非伝統的安全保障も含む。 |
4 |
グローバル連携を強化する。 |
域外国・域外地域との経済連携協定を改善し、強化して、世界のグローバル化の動きに適応する。 米国を敵にせず、地域協力を深める方策が鍵である。 |
5 |
戦争のない世界を実現する。 |
紛争を処理する機関を設け、地域内の平和を実現する。 さらに、地域外の共同体と連携して、「戦争のない世界」、「格差も抑圧もない積極的平和の世界」を実現する。 |
2.不戦時代の地域協力と国際協調
中国の台頭を契機に、アメリカ一極支配の時代が終り、いま世界は、多極支配の時代へ向かっている。ローカルな紛争は別にして、核保有国の核兵器は、相互に防御不能であり、国と国の戦争ができない不戦時代となっている。
不戦時代の外交は、安全保障偏重より、地域協力と国際協調である。東アジア共同体、EU,北米自由貿易協定(NAFTA)などの地域連合が、それぞれの地域の利益を増進するとともに、国際協調により、平和な地球を実現することを願う。これは、核廃絶への近道でもある。
3.まとめ(筆者のコメント)
①東アジア共同体(ASEAN+日中韓)の輸出依存度は50%強、輸入依存度は60%強である。直接投資依存度も高く、流通コストは劇的に低下している。共同体推進をためらう理由はない。
②政治体制や価値観が異なる国同士の共同体は成立しないという説があるが、1項の「目指すもの」見ても、障害はない。人権尊重は当該国民が決めることで、他国が押し付けることではない。
③岡倉天心が「アジアは一つ」と説き、福沢諭吉が「脱亜入欧」と唱えた。今は、「親亜親欧」の時代ではないだろうか。
21世紀、日本の針路 ➉東アジア共同体の段取り [平和外交]
日本は、対米従属から脱却し、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めたい。その第一歩は、東アジア共同体の推進である。東アジア共同体は、どのような段取りで実現するか考えてみよう。
1.東アジア共同体の発展段階
バラッサの経済統合論を参考に、共同体の導入ステップを、表にまとめてみた。課題はあるが、克服すればメリットは大きい。10年くらい時間をかけて共同市場まで進み、その先はさらに多くの時間をかけて交渉するのが良い。交渉の中から、東アジアの平和が育まれると思う。
NO |
発展段階 |
説明 |
課題 |
1 |
自由貿易 |
参加国相互間の域内関税を撤廃し、貿易を自由化する。 |
やむを得ず関税を残す品目があれば、各国間で誠実に交渉し、協定を締結する。粗悪品の流入には要注意。 |
2 |
関税同盟 |
上記に、非加盟国からの輸入品に共通関税をかける。 域外各国と個別の関税交渉ができなくなる。 |
グローバリゼーションの時代に、非加盟国に対し、排他的な関税政策をとると、軋轢を生む。米国が黙ってはいない。 |
3 |
共同市場 |
上記に、労働力、資本などの生産要素の域内自由移動を保障する。マクロ経済政策を統一して実行する機能も持つ。 |
人の自由移動で、難民流入が増え、円で元を支えるリスクなどの不都合が起こり得る。マクロ経済政策の統一で、各国の主権が侵される。 |
4 |
経済同盟 |
上記に、構成国間の経済政策の調整が、ある程度実施される。通貨の統一もテーマになる。 |
構成国の実力がそろわず、無理を押し付けると軋轢を生む。 財政政策の自由度が減る。 |
5 |
完全な 地域統合 |
経済、財政、金融、通貨が統合されて、一つの国のようになる。 |
このような地域統合は、まだ地球上に実現していない。 |
2.東アジア共同体の段取り
(1)政府主導のプロジェクト立ち上げ
当ブログの「東アジア共同体の歩み」で述べたように、共同体は多くの産官学の枠組みで研究され、報告されている。しかし、すでに研究段階は過ぎた。政府が本気で取り組む時期である。
(2)対中国のアプローチ
東アジア共同体の交渉において、難物は中国である。中国と交渉開始の合意ができれば、8割がた、スタートアップは完了である。日本は、中国を仮想敵とせず、交渉の本気度を態度で伝えるべきである。歴史認識や靖国問題などは、霧消するに違いない。周辺国が結束して中国に立ち向かおう。
(3)ASEAN+3(日中韓)で、まず、交渉しよう
日本は共同体の交渉で中国の圧力を緩和するため、インド、豪、ニュージーランドの力を借りようとして、ASEAN+6にこだわっていている。これは戦略ではあるが、日本の弱腰で、交渉の本格スタートを遅らせるだけである。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」である。
(4)アメリカの説得
日本が、アメリカを排除するのではなく、その支援を得ながら、アジアの平和的発展に、本気でコミットする決意を披露すれば、説得はできると思う。
アジアのことは日本と中国に任せてもらって、アメリカは、地域連合を束ねる世界政府のような組織の中枢を担ってもらうのがよい。この構想について、アメリカの心ある要人への根回しは必須である。21世紀、日本の針路 ⑤平成不況期の「国のかたち」 [平和外交]
⑤の記事が、投稿漏れとなっていたので、遅まきながら投稿する。
バブル崩壊後の不況期と平成時代の30年は、ほぼ重なっている。この時期は、グローバル化の進展で、アメリカの多国籍(無国籍ともいう)企業の隠然たる支配があり、日米安全保障条約による、軍産複合体の日本支配も続いている。日本は、70年以上、体制転換をしようとしなかった。
平成不況期の「国のかたち」は、簡単に表わすと下図の通りになると思う。この図は、前回の当ブログに掲載した図と同じである。 平成不況期の主要な出来事の歴史的な意味を考えてみよう。
戦後 1945~2018 |
|
国体 (米国) |
→ |
米・軍産複合体(注) |
→ |
政権 |
← |
国民 |
(注)ジャパンハンドラーともいわれ、日本の官僚を従えて、日本を支配している。
← :矢印の向きは国民主権の意味だが、権力の乱用もあって、十分ではなかった。
1.湾岸戦争
平成2年(1990)8月にイラクがクウェートに侵攻したのに対し、アメリカを中心とする55万の多国籍軍をアラビア半島に派遣した戦争。日本はアメリカの要求で130億ドルを支出したが、兵士を送らなかったということで感謝されず、バッシングにあった。
2.ソ連崩壊
平成3年(1991)12月に、ソ連のゴルバチョフ大統領が辞任し、同時に各連邦構成共和国が主権国家として独立したことに伴い、ソビエト連邦が解体され消滅した。アメリカとともに2大超大国として69年間続いたソ連が崩壊し、冷戦時代が終わり、アメリカ一極支配(1G)の時代に入った。
3.村山談話
平成7年(1995)8月15日、村山富市元首相は総理官邸で記者会見し、「日本の植民地支配と侵略によって、多くの人々、とくにアジアの諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」と発表、大東亜戦争を侵略戦争と断定し、「痛切な反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明いたします」と述べて頭をたれた。この種の謝罪談話は、河野、小泉(演説)、安倍など何回も繰り返されている。
4.日米安保共同宣言(平成8年(1996)4月)
訪日したクリントン米大統領と橋本首相の日米首脳会談で合意された日米安保の共同宣言。冷戦終結に合わせて、中国を念頭に、範囲を極東からアジア太平洋に拡大し、軍事同盟色を強化した。
5.新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)
①平成8年の日米安保共同宣言を受けて、日本の分担を、極東以外の「周辺事態」に広げ、軍事大国化路線に踏み出した。
②平成27年、中国の海洋進出を念頭に、「切れ目のない対応」と称して、いつでも、どこでも自衛隊が米軍の後方支援をする体制を作った。
6.平和安全法制整備法案の強行採決(平成27年(2015)9月)
平成26年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定を受けて、11本の法律を作り、議会で強行採決をした。前項の新ガイドラインで約束した内容を法制化したもので、違憲を承知の解釈改憲である。
7.まとめ(筆者のコメント)
①平成時代というと、まず今上天皇のお姿が浮かぶ。天皇は国民一人ひとりの「祈り」を集めて祈ってくださるご存在である。平和日本の象徴であり、天皇の政治利用はすべきではない。
②謝罪談話は、村山、河野、小泉、安倍など何回も繰り返されている。日本は、アメリカに従属し、アジアで、自ら「よそ者」に身をやつしているせいだ。別の道がある。
③日米同盟は敵を作り出している。軍事同盟強化は、仮想敵の軍備を強化させ、敵対関係を増強する悪循環に陥るもので、賢明な選択とは言えない。
冷戦終結から30年近く、いまだに、対米従属から抜け出そうとしない政治が情けない。
21世紀、日本の針路 ⑪国連改革の試み [平和外交]
東アジア共同体のような地域連合の構築に引き続くテーマは、世界政府の樹立である。アジア、EU、米州などに、それぞれの地域連合体が首尾よく構築された後、それらを束ねる世界政府をどのように作ってゆくかを考えてみよう。日本の安全保障にも革命的な好影響があると思う。
下図は、このシリーズの初回に掲載した図の一部である。国連の表示を、世界政府に変更させていただいた。
未来 2018~ |
|
世界政府 (国連) |
→ |
東アジア共同体 |
→ |
政権 |
← |
国民 |
1.国連安保理改革の現状
国連改革の最重要課題は、国連安保理改革である。1945年51か国で発足した国際連合(国連)は、現在193か国が加盟する国際機関となっている。
国連の安全保障理事会は常任理事国(戦勝国)の5か国、非常任理事国(任期2年)の10か国で構成され、日本は過去に11回非常任理事国を務めた。
国連安保理改革の一つとして、非常任理事国の数を15か国に増やす案や、日本などを常任理事国に格上げする案などが検討されているようだが、73年たっても実現していない。
最大の問題は常任理事国の拒否権である。中国、ロシアがらみの議題は両国の拒否権発動で、採択されることはなない。世界政府機能を持つなどは夢で、国連は機能停止に陥っている。
2016年7月の当ブログ「国際改革は地域連合から」参照
2.世界連邦政府推進運動の経緯(次回詳報)
世界連邦運動(WFM)は、国際的な非政府組織で、世界のすべての国家を統合した世界連邦の成立を目指している。1946年、国連の戦争抑止能力に失望した世界の有識者が、「世界連邦政府のための世界運動」を起こした。アインシュタイン、チャーチル、湯川秀樹などが賛同した。運動の詳細は、次回の当ブログで述べる。
3.国連中心の安全保障
日本国憲法は1946年に占領軍によって制定され、9条により、戦争を放棄し、軍隊を持たないこととなった。日本はダルマさんになったが、何かあれば国連が守ってくれると期待されていた。
ところが、東西冷戦がはじまり、国連が全くあてにできなくなり、代わりに1952年にアメリカと安全保障条約を締結し、守ってもらうことになった。対米従属の始まりである。
1989年の冷戦終結を機に、アメリカの代わりに国連に安全保障を委ねるとする提案があった。(加藤典洋氏の「戦後入門」参照)
国連軍を増強して、加盟国の安全保障を担ってもらう構想であるが、現行の安保理体制では、実現は難しいと思われる。
4.地域連合と世界政府(筆者の提案)
アジア、EU、米州などの地域連合の上に、これらを管理するための、世界政府機能の創設を提案する。これは、国連の改革というより、世界政府機能を新しく創設し、国連組織のうち、使えるものは利用するという構想である。
詳細は当ブログの後続の記事で述べる。
左端は大山、中央に富士山頂(町田市成瀬尾根道から)
21世紀、日本の針路 ⑫世界連邦政府推進運動 [平和外交]
1.世界連邦運動の経緯
第2次世界大戦の末期に、「将来の世代を戦争の惨禍から救う」ために、国連が創設されたが、数週間後、広島、長崎に原爆が投下された。平和維持機構としての国連に失望して、1946年、国家を超えた権威と権限を有する世界連邦機構を作りたいという世論が起こった。
世界連邦運動は、国連の改革と強化を通して世界連邦を実現し、世界連邦政府の法の下で、平和と人権を守ってゆける世界を構築する運動である。
アインシュタイン、チャーチル、湯川秀樹などの著名人が賛同した。
2.世界連邦運動の活動方針
1947年、スイスのモントルーで開かれた第一回世界大会で、世界連邦政府運動の組織や方針を発表した。いわゆるモントルー宣言の内容を要約すると下記である。
①全世界が対象 ②国家の主権の一部を世界政府に移譲
③世界連邦法は個人を対象に ④各国の軍備を全廃し、世界警察軍を設置
⑤原子力は世界連邦政府のみ所有し管理 ⑥経費は個人からの税金で賄う
世界連邦政府への参加資格は個人単位であり、事実上の「単一世界国家」(ワンワールド)建設である。
3.世界連邦運動の日本の活動
終戦直後に、尾崎行雄ら有志議員が「世界連邦建設に関する決議案」を国会に提出。1948年「世界連邦建設同盟」が結成され、尾崎行雄が初代会長になった。第5代会長に湯川秀樹が就任している。
「世界連邦建設同盟」はのちに、「世界連邦運動協会」に名を変えて活動している。
2005年、衆院本会議での「国際平和の構築への貢献決議」を受けて、外務省総合外交政策局に世界連邦運動の窓口を設置した。
日本国内の関係団体として、世界連邦推進日本協議会、世界連邦日本国会委員会、世界連邦宣言自治体全国協議会、世界連邦日本宗教委員会、世界連邦日本仏教徒協議会、世界連邦文化教育推進協議会などがある。
4.世界連邦日本大会
世界連邦運動の最近の事例として、2018/8/18 第34回世界連邦日本大会が亀岡市で開催された。スローガンは「地球に国境はない」で、千玄室(大宗匠)の記念講演があり、テーマは「世界の人とともに―和の心―」。後援:外務省、文部科学省、京都府
5.世界連邦政府の実現を求めた著名人の言葉(筆者が要約)
アインシュタイン 世界政府を擁護するのは、他に人類の破滅を避ける方法がない。
湯川秀樹 世界連邦は昨日の夢であり、明日の現実である。
バートランド・ラッセル 大戦争を恒久的に阻止する機関は世界連邦政府しかない。
尾崎行雄 世界の廃藩置県なくして、人類の平和はない。
アーノルド・トインビー 世界政府の「平和と正義」が世界を救うであろう。
賀川豊彦 人類の解放は世界連邦国家しかない。争いはやめ、公儀と親切を伝統とせよ。
ネルー(インド) 世界政府は来るであろう。それ以外に、世界の病気を治せない。
稲盛和夫 EUは世界連邦政府のひな型。為政者はその拡大を考えよ。
梅原猛 EUのような組織を世界各地に作り、その上に、世界連邦政府を作ろう。
千玄室 「普遍的な人類愛」こそ、平和な世界の実現につながる。
アグネス・チャン 平和は砂のようなもの。気を抜くと指の間から零れ落ちる。
21世紀、日本の針路 ⑬世界政府とその理念 [平和外交]
アジア、EU、米州などの地域連合の上に、これらを管理するための、世界政府機能の創設を提案する。これは、国連の改革というより、世界政府機能を新しく創設し、国連組織のうち、使えるものは組み込んで利用するという構想である。世界政府の真の目的と、目指すものは何かを考えてみよう。
1.世界政府の目指すもの(下表)
NO |
目指すもの |
内容 |
1 |
自由貿易の推進 |
保護貿易主義が蔓延する今、自由貿易は世界平和の要である。WTOを改革し、グローバリゼーションの行き過ぎは制御しよう。 |
2 |
地域連合の管理 |
米州、アジア、EUなどの地域連合が機能するよう、支援と管理を万全に。 |
3 |
人権擁護と安保 |
難民や移民などへの人権侵害に対し、元を断つ施策が必須。 軍備増強による安全保障より、紛争予防や、安心供与・信頼醸成による軍縮を。 |
4 |
核兵器廃絶 |
核抑止力有用論の克服、核先制不使用を宣言する保有国の増加、核兵器による威圧を禁止、非核兵器地帯の面積増加、核兵器保有税の新設、核廃絶市民運動の展開(不買運動含む) |
5 |
恒久平和の保障 |
各地域連合から少数精鋭を集め、地球防衛軍を編成して、紛争・戦争予防に当たる。世界憲法の遵守で、恒久平和を実現。 |
2.世界政府の組織
世界憲法を制定し、これを実現する世界政府の組織は、概略、下図の通りである。
3.まとめ(筆者コメント)
①超大国の横暴や、民族紛争の激化で地球は危機に瀕している。この危機を救うには、人類の勇気と英知を集めて、世界政府を樹立するしかない。
②核抑止力有用論は本当だろうか。核兵器は相互に防御不能であり、安上がりで、戦争をできなくしたというが、本当だろうか。テロ集団への移転や、不慮の事故対応、更新・廃棄費用などを考えると、決して安くはないと思う。
代案がある。安心供与・信頼醸成に基づいた世界政府の樹立が答えである。
21世紀、日本の針路 ⑭世界政府創設の段取り [平和外交]
前回の当ブログで述べた、世界政府の理念を実現するための、世界政府創設はどのような段取りになるか考えてみよう。
1.世界政府創設の準備組織
意外かもしれないが、いま世界で一番問題の難民予防を入口のテーマにしよう。難民流出は世界の困難の多くの割合を占めている。
日本が主導して、国連内に難民予防検討の仕組みを作り、難民流出の原因分析や対策立案の過程を通して、世界政府創設の準備組織を立ち上げよう。
2.世界憲法の起草
世界憲法は、国連憲章をなぞるだけでは不十分である。世界政府に必要な機能を新しく想定し、それをもとに草案を作ろう。
コラム1の国連憲章の問題点や、コラム2の世界憲法予備草案などを参考にして、画期的な世界憲法を作りたい。
3.世界政府の機能のデザイン
世界政府に必要な諸機能を新しくデザインし、質と量を定義しよう。世界政府、世界行政府、世界政府議会などが対象である。(前回ブログ記載の「世界政府の組織図」参照)国連組織のうち、使えるものは組み込んで利用するという発想が必要である。
4.まとめ(筆者のコメント)
①英・アクトン卿の格言:「あらゆる権力は腐敗する。絶対権力は絶対に腐敗する。世界帝国(一極覇権国家)による安定した平和は危険。世界政府による不安定な平和はまだまし。」
②難民の流出は、アフガニスタン、南スーダン、シリア、ミャンマー、ソマリアなどからが多く、流入先において、社会の分断と紛争引き起こしている。流出を予防する活動が切望される。
コラム1 国連憲章の問題点
国連憲章は、前文と111条からなる。目的・原則、加盟国の地位、機関、総会、安保理、紛争の平和的解決、経済的・社会的国際協力などを規定している。
国連は、加盟国から国連軍に兵力提供を受けるための「特別協定」が、米ソ対立で草案の作成に失敗し、いまだに締結されていない。そのため、常備軍の編成の失敗で、国連軍の実態がなく、紛争解決をPKOに頼っているのが実情である。
加盟国が急増したにもかかわらず、国連は、地球規模の諸問題に適切に対応できていない。拒否権を手放さない安保理常任理事会の改革や、経済・社会理事会の強化など、多くの問題を抱えている。
また、国連憲章には、いまだに敵国条項なるものがあり、日本やドイツがその対象になっている。直ちに削除しなければならない。
コラム2 世界憲法予備草案
「世界連邦運動」の理念を表明したものに、世界憲法予備草案がある。1948年3月に世界憲法審議委員会によって発表された世界連邦の憲法草案である。
草案は、前文と全47条からなり、戦争防止のための権能と、正義と人権の保障を表明した。また、基本義務及び権利に関する宣言では、下記のような画期的考え方を含んでいた。
①「貧困の束縛からの解放、隷属的・搾取的労働からの解放」、
②「人種的・民族的な征服からの個人・集団の保護」
③「土地・水・空気・エネルギーを人類共通の財産と位置付ける」
この草案の考え方には、一部批判もあるが、世界憲法の起草の際に、参考になる。21世紀、日本の針路 ⑮アタリの新世界秩序 [平和外交]
ヨーロッパの知性と称される、ジャック・アタリ氏の近刊本「新世界秩序」を読んだ。副題が、30年後の世界を支配するのは誰か? 日本はどうすべきか? となっている。
「新世界秩序」は、国連を改革して世界共同体を創設するのがテーマである。当ブログのシリーズで述べた世界政府の創設と重なり、大変参考になるので、シリーズの最後に取り上げる。
1.ジャック・アタリ氏の世界共同体
世界共同体創設の論旨を、下表にまとめてみた。
|
名称 |
機能 |
備考 |
S |
世界共同体 |
世界統治、世界法典の遵守 |
|
A |
世界議会 |
世界共同体の意思決定 |
三院制 |
A1 |
世界市民議会 |
世界法の評決。首相指名(首相が大臣指名)。予算審議 |
議員数1000人、議員任期5年 |
A2 |
国家代議院 (現国連総会) |
現国連総会に近い。領土紛争を管理。法典の起草に参与 |
各国、人口の大小にかかわらず、一律2人選出 |
A3 |
長期企画院 |
法典の原案提出。世界共同体の長期的(20年)安定、独立性、能力向上。将来世代の代表、地球環境や生物の保護 |
議員定数は300人。任期10年。 有識者。 |
B |
世界統治機関 |
世界共同体の行政全般の執行。 |
|
B1 |
首相 |
世界統治行政の責任者。公務員を採用し、予算案を編成、決定後、執行。 |
世界市民議会で選任、任期5年。首相が大臣を選任 |
B2 |
世界統治 評議会 (現安保理) |
現安全保障理事会に近い。米、EU、露、中、印が拒否権保持。日本の他3国に将来拒否権付与。 他に10か国の非常任理事国を置く |
すべての大陸の代表で構成。 G20と融合させる。 国連総会に報告義務あり。 国連総会に異議申し立権限付与 |
B3 |
7人委員会 |
世界の利益の代表者。法典遵守監視 |
三院で各2名選出、互選1名。任期7年、再任不可。議長持ち回り |
B4 |
世界警察 |
経済犯罪撲滅、民主主義擁護グローバル・リスク除去。 |
長官は、世界統治機関が指名、議会が承認。 |
B5 |
防衛軍 |
世界の紛争の予防と解決 |
隊員は、長期企画院監督下の選抜試験を経て採用。 |
C |
司法制度 |
世界法典(憲法含む)の遵守 |
法典は、世界議会が票決する |
C1 |
最高法廷 |
世界司法体系の頂点に立って、これを統括する。各国の裁判所は、世界法典との整合性をチェックされる。 |
裁判官は、三院によって指名。 |
D |
民主政治制度 |
世界政党の結成、政策綱領の開発。 必要な予算をつける |
世界情報機関を設置し、世論形成、文化交流などを促進する |
E |
金融システム |
世界中央銀行を設けて、世界通貨を発行し、複数の世界投資銀行を通じて、金融の国際的均衡を図る |
融資業務と預金運用業務を分離させる。 |
4.まとめ(筆者のコメント)
①世界統治評議会で、拒否権の行使が可能だが、これでは、大国の横暴が温存されることになる。議決権にウエイトをつけるなど、採択方法の工夫により、拒否権をなくすべきである。
②敵を探してバランス・オブ・パワーで凌ごうとする強権政治が、いま氾濫している。ともに平和を作ってゆく国際協調の道を、真っ先に探そう。
21世紀、日本の針路⑯ 本シリーズのまとめ(上) [平和外交]
「21世紀、日本の針路」シリーズの終わりに当たり、ポイントを二回に分けて述べよう。
1.歴史修正主義の清算
安倍首相は、過去に、「侵略の定義は定まっていない」、「植民地で良いこともした」などの発言があった。地球俯瞰外交を自慢しても、衣の下に鎧を隠すような態度では、東アジアでは、外交をさせてもらえない。
安倍首相にとって、歴史清算の象徴的な行動は、南京慰霊訪問である。南京を訪問して頭を下げるだけで、中国はもちろん、アジアの人々の態度がガラッと変わると思う。
2.近隣外交の改善
米中貿易戦争の影響もあって、最近は、日中雪解けムードの気配が感じられるようになった。この機に乗じて、下記施策を実行し、一気に、東アジア共同体構築のキックオフに持ち込もう。
●中国の「一帯一路」構想に参加表明
●AIIB(アジアインフラ投資銀行)加入の表明
●アジア相互信頼醸成措置会議(CICA)に、正式参加表明
●東アジア地域連合(共同体)のキックオフ宣言
ここまで信頼醸成ができてくれば、日本の憲法九条2項(戦力不保持、交戦権否認)を削除する憲法改正が可能になろう。九条1項(戦争放棄)さえ堅持すれば、国民からも、アジア各国からも、九条2項削除の賛同は得られると思う。
3.日米同盟の見直し
日本は、過去72年間、何回かあった日米同盟見直しのチャンスを逃してきた。安倍政権は、日米同盟に縋りついているが、同盟が完全に機能する保証はない。
この辺で、戦略を練り、勇気を振り絞って、日米同盟見直しの働きかけをすべきである。とりあえず、下記事項から取り組むのが良いと思う。
●対米、自由貿易協定/経済連携協定の維持
●日米地位協定の見直しの提起
●日米同盟の見直しの働きかけ
●米国の国連改革主導を要請
●世界政府における、国際問題解決リーダーへの就任要請
アメリカに敵対するのではない。日本の、東アジアの平和構築に向けた行動に対し、アメリカに支援し、見守ってもらうよう要請するのである。アメリカの、心ある要人への根回しが必須である。
日米同盟の見直しが、緒に就けば、近隣諸国が、日本を見る目ががらりと変り、日本が生まれ変わる契機になると思う。「案ずるより産むがやすし」である。
4.まとめ(筆者のコメント)
①東京裁判は、裁くべき根拠法がなかったというが、恨み節をうなっていても仕方がない。未来志向で再出発を図ったのは正解。
②中国を仮想敵とせず、共同体に本気で取り組めば、歴史認識や靖国問題などは、霧消すると思う。
③謝罪談話は、村山、河野、小泉、安倍など何回も繰り返されている。日本は、アメリカに従属し、アジアで、自ら「よそ者」に身をやつしているせいだ。別の道がある。
④敵を探してバランス・オブ・パワーで凌ごうとする強権政治が、いま氾濫している。ともに平和を作ってゆく国際協調の道を、真っ先に探そう。
⑤日米同盟は敵を作り出している。軍事同盟強化は、仮想敵の軍備を強化させ、敵対関係を増強する悪循環に陥るもので、賢明な選択とは言えない。
⑥経済成長期にも、今も、米・軍産複合体の支配は続いているが、そろそろ年貢の納め時である。
21世紀、日本の針路⑰ 本シリーズのまとめ(下) [平和外交]
「21世紀、日本の針路」シリーズの終わりに当たり、ポイントを二回に分けて述べよう。
1.東アジア共同体の構築
日本は、対米従属から脱却し、アジアに正面から向き合う新機軸の外交を進めたい。その第一歩は、東アジア共同体の推進である。東アジア共同体の真の目的と、目指すものは何かを考えてみよう。
(1)東アジア共同体が目指すもの
人、もの、カネの自由化を通じ、地域の競争力向上、豊かさの実現。ひいては、人権と安全が守られる社会と、戦争のない世界を実現する。
(2)政府主導のプロジェクト立ち上げ
当ブログの「東アジア共同体の歩み」で述べたように、共同体は多くの産官学の枠組みで研究され、報告されている。しかし、すでに研究段階は過ぎた。政府が本気で取り組む時期である。
(3)対中国のアプローチ
東アジア共同体の交渉において、難物は中国である。中国と交渉開始の合意ができれば、8割がた、スタートアップは完了である。日本は、中国を仮想敵とせず、交渉の本気度を態度で伝えるべきである。
(4)ASEAN+3(日中韓)で、まず、交渉しよう
日本は共同体の交渉で中国の圧力を緩和するため、インド、豪、ニュージーランドの力を借りようとして、ASEAN+6にこだわっていている。戦略ではあるが、日本の弱腰で、交渉の本格スタートを遅らせるだけである。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」である。
(5)アメリカの説得
日本が、アメリカを排除するのではなく、その支援を得ながら、アジアの平和的発展に、本気でコミットする決意を披露すれば、説得はできると思う。
アジアのことは日本と中国に任せてもらって、アメリカは、地域連合を束ねる世界政府のような組織の中枢を担ってもらうのがよい。構想について、アメリカの心ある要人への根回しは必須である。
2.世界政府の構築
アジア、EU、米州などの地域連合の上に、これらを管理するための、世界政府機能の創設を提案する。これは、国連の改革というより、世界政府機能を新しく創設し、国連組織のうち、使えるものは組み込んで利用するという構想である。世界政府の真の目的と、目指すものは何かを考えてみよう。
(1)世界政府が目指すもの
自由貿易の推進、地域連合(共同体)の統括、地球市民の人権擁護と安全保障、核兵器廃絶、恒久平和の保障である。
(2)世界政府創設の準備
難民流出問題を手掛かりにし、日本が主導して、国連内に難民流出予防検討の仕組みを作り、難民流出の原因分析や対策立案の過程を通して、世界政府創設の準備組織を立ち上げよう。
(3)世界憲法の起草
世界憲法は、国連憲章をなぞるだけでは不十分である。世界政府に必要な機能を新しく想定し、それをもとに草案を作ろう。お手本はたくさんある。
(4)世界政府の機能のデザイン
世界政府に必要な諸機能を新しくデザインし、質と量を定義しよう。世界政府、世界行政府、世界政府議会などが対象である。国連組織のうち、使えるものは組み込んで利用するという発想が必要である。
3.まとめ(筆者のコメント)
①東アジア共同体(ASEAN+日中韓)の輸出依存度は50%強、輸入依存度は60%強である。直接投資依存度も高く、流通コストは劇的に低下している。共同体推進をためらう理由はない。
②岡倉天心が「アジアは一つ」と説き、福沢諭吉が「脱亜入欧」と唱えた。今は、「親亜親欧」の時代ではないだろうか。
③超大国の横暴や、民族紛争の激化で地球は危機に瀕している。この危機を救うには、人類の勇気と英知を集めて、世界政府を樹立するしかない。
④核抑止力有用論は本当だろうか。核兵器は相互に防御不能であり、安価に、戦争をできなくしたというが、本当だろうか。テロ集団への移転や、不慮の事故対応、更新・廃棄費用などを考えると、決して安くはないと思う。代案がある。安心供与・信頼醸成に基づいた世界政府の樹立が答えである。
⑤難民流出後の対策より、流出予防が大事。世界政府の適切な対処が望まれる。
新冷戦の脅威 ①中国の覇権的な挑戦 [平和外交]
米ソ冷戦が終わったと思ったら、また、新しい米中新冷戦が始まった。世界の歴史を見ると、随所に、愚かな人間の策謀と悪あがきで、多くの人命が損なわれてきた。美しく、かけがえのない地球の滅亡まで、地球週末時計であと3分という。憂慮に耐えない。回避の策はあるのか。
1.トゥキディデスの罠
「新たな覇権国の台頭と、それに対する既存の覇権国の懸念が戦争を不可避にする」。これは、ギリシャの歴史家トゥキディデスが残した言葉で、トゥキディデスの罠と呼ばれている。
過去500年間に、こうしたケースは16回あり、うち12回で大きな戦争になったと言われている。
台頭する中国は、覇権は狙わないと言いながら、正当性が怪しい自国の権利を強く意識し、覇権を狙う気持ちを内に秘めている。一方、既存の覇権国・米国は新興国・中国の挑戦に直面して、不安になり、相手を蹴落とそうと策を練っている。これが、現在進行中の米中貿易戦争であり、軍事的緊張が高じて、下手をすると本当の戦争になりかねない。
2.中国の覇権的な挑戦
中国の覇権的な挑戦の、主な内容は下記の通りである。発展途上国なら許されても、大国となった中国には許されない。この「チャイナ・グローバリズム」に、世界がどう向き合うか問われている。
問題 |
覇権的な挑戦の内容 |
不公正な貿易ルール |
・高い関税障壁(自動車は、米の10倍) ・知的財産権の侵害(スパイや剽窃による) |
外国企業の投資制限 |
・外国企業に厄介な事業免許要件や出資比率規制を課す ・外国企業の中国進出を許す代わりに技術移転を強要 |
国内産業保護 |
・国有企業等に土地や資本を助成(競争優位狙い) ・国内企業に輸出助成や税制優遇 |
為替介入 |
・為替介入による人民元の為替調整(人民元安誘導) |
軍備拡張 |
・中国の2018年国防費は、18.4兆円、前年実績比8.1%増。日本の5倍以上。武器装備品の近代化を急速に推進。 |
南シナ海海洋進出 |
・南シナ海に人工島を七つ、うち三つには滑走路建設。 軍事基地化を進めている。 |
イラン制裁違反 |
・ZTE(中興通訊)がイラン禁輸措置に違反 |
3.まとめ(筆者コメント)
①自由貿易は相互主義で成り立つ。輸出相手国には自由貿易を求め、自国市場は関税、補助金、規制で保護するのは通らない。
②中国は、投資相手国の土地、企業は自由に購入し、技術移転を強要する。一方、自国では外国人の土地購入を認めていない。日本も、北海道などの水源地を、中国資本に乗っ取られないよう、規制を考えよう。
③中国は、外国に自国の労働者を大量に送り込み、相手国の雇用を奪うが、自国には移民を認めていない。日本にも、いくつかチャイナタウンができているが、節度ある移民受け入れが望ましい。
④中国崩壊論が良く聞かれる。中国崩壊待望論というべきかもしれないが、品性が透けて見える。ここは、向こう三軒両隣の精神で、おせっかいを焼くべきではないか。虎穴に入って、大きな虎児を調教するくらいの気概を持とう。
新冷戦の脅威 ②米中バトル [平和外交]
米ソ冷戦が終わったと思ったら、また、新しい米中新冷戦が始まった。前回のブログで述べた、中国の覇権的な挑戦に対し、米国から厳しい反撃が開始された。米中バトルの現状を見てみよう。
1.米中の貿易バトル
今年3月、米国は、鉄鋼25%、アルミニューム10%の関税措置を発動した。相手は、中国、日本など、多くの国が対象となった。これとは別に、中国の対米貿易黒字が突出して大きいことから、下記のような米中貿易戦争が行われている。
2018年 |
米国の関税措置 |
額/億ドル |
中国の対抗措置 |
額/億ドル |
7月6日 |
半導体などに25% |
340 |
2回に分けて 報復関税25% |
500 |
8月23日 |
化学品など 25% |
160 |
||
9月24日 |
日用品など 10% |
2,000 |
液化天然ガスなど |
600 |
合計 |
|
2,500 |
|
1,100 |
注)米国は、中国が報復すれば、制裁をさらに2,670億ドル追加するとしている。
2.米中の安全保障に関わるバトル
米中の安全保障などに関わる、最近の主な紛争は下表のとおりである。
項目 |
中国の措置 |
米国の措置 |
南シナ海 |
中国の駆逐艦が、米駆逐艦を追跡し、40mに異常接近 |
ペンス副大統領が抗議声明発表。 航行の自由作戦を続行。 |
南・東シナ海 |
米強襲揚陸艦「ワスプ」の香港寄港を拒否 |
米戦略爆撃機B52、南・東シナ海を飛行 |
ZTE制裁 |
ZTE(中興通訊)が製品や技術のイランへの禁輸措置に違反 |
ZTEとの商取引を7年間禁止 (ZTEは8千億ドル減収) |
プロパ ガンダ |
中国メディア企業が、農業州であるアイオアの新聞に下記広告を出した。「米中貿易が相互利益をもたらす」 |
米国の選挙を操作する意図を持った、プロパガンダ広告と認定。 制裁検討中。 |
3.まとめ(筆者コメント)
①日米首脳会談(9月25日)の共同声明で、「非市場型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。」と発表された。
対中貿易戦争に日本も参加せよと要求されたわけで、これからの対応が難しい。
②米中バトルで、いま、日本外交にまたとないチャンス到来。米中の調整役を買って出よう。
③日中は、何でも言える親友の関係になろう。
④日米は、時間をかけて、遠い親戚の叔父さんと甥のような関係を築いていこう。
追伸:軽い脳梗塞で、左手が効かなくなり、2週間入院し、今はほぼ回復しました。
投稿のペースダウンをお許しください。
新冷戦の脅威 ③悪魔が操る悪魔の兵器 [平和外交]
米ソ冷戦が終わったと思ったら、また、新しい米中新冷戦が始まった。前回のブログで述べたように、貿易戦争だけでなく、いまや、安全保障に関わる覇権争いの様相を呈してきた。
1.悪魔が操る悪魔の兵器
いま、大国の間で、下表のとおり、新型兵器の開発競争が始まっており、まさに、悪魔が操る悪魔の兵器が続々登場している。
種類 |
性能 |
開発国 |
小型核兵器 |
核兵器の小型化、多弾頭化、長射程化、命中高精度化、戦略・戦術の多様化が進んでいる。 トランプ政権の「核戦略見直し(NPR)」宣言で、一層緊張が高まった。 |
核保有 5か国、 +北朝鮮 |
神の杖(宇宙兵器) |
ロケットを取り付けた金属棒を軍事衛星からマッハ9.5で地上に突き刺す。貫通力は数百m。破壊力は核弾頭並み。 |
米 |
テイザー・ショックウエーブ |
ワイヤー付きの電極針を敵に向けて発射、命中したら高圧電流を流し、相手を無力化 |
米 |
レーザー兵器 |
指向性エネルギー兵器。赤外線ビームを照射して、標的を破壊。米はすでに、ペルシャ湾の輸送揚陸艦に装備。 |
米/ロ |
パワードスーツ |
兵士の負担軽減をする動力アシストシステム。神経を流れる電気信号を感知して操作。 |
米 |
電磁パルス砲 (EMP砲) |
電磁パルスを放射、電子機器を破壊。 |
米 |
虫型ドローン |
カナブンや蚊の形状。偵察機能をもつ。 |
米 |
MQ-9 リーパー |
軍用無人航空機(軍事用ドローン)。航続距離6000キロ、速度400キロ/h。 |
米 |
気象兵器 |
気象を操作する戦術兵器で、他国を弱体化。 |
ロ/中/米 |
宇宙兵器 |
人工衛星を兵器化し、他国の衛星や地上ミサイル基地を攻撃。宇宙戦争の勃発。 |
ロ/中/米 |
原子力巡航ミサイル (ブレヴェストニク) |
射程無制限のステルス巡行ミサイル |
ロ |
原子力魚雷 (ポセイドン) |
原子力で海中を巡行し、空母や港湾を核攻撃するロボット兵器 レーダー衛星とペア。 |
ロ |
殺人ロボット兵器 |
AIを搭載し、標的を自動探索。形状は人型、ドローン型など。 |
多数 |
2. まとめ(筆者コメント)
①悪魔の兵器を持つと人は使いたくなるもの。ドローンなどを殺人兵器化するのは、何としても避けねばならない。新殺人兵器の制限は、新冷戦の緩和に役立つと思う。
②宇宙兵器開発競争が激化しているが、宇宙戦争は決して見たくない。日本は国連で先頭に立って、宇宙兵器禁止条約をまとめてもらいたい。
③トランプ大統領は10月20日、ロシアと結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する方針を示した。ロシアが条約に違反しているのが破棄の理由としているが、ロシアは反発しており、軍拡競争が加速する恐れがある。米国は、離脱でなく、条約を盾にロシアの核開発政策の変更を迫るのが筋である。
新冷戦の脅威 ④中国の「TPP加入」のススメ [平和外交]
新冷戦の脅威を緩和する方策を考えてみよう。結論はアジアを一つにすることだと思う。アジアで輝いている日本を見てみたい。手始めは何か。
1.TPPの交渉経過とアメリカの離脱
TPPとは、太平洋を取り巻く国々で、関税撤廃を目指し、自由で開かれた貿易を実現するという協定である。2006年に交渉が始まり、2015年10月に12か国の間で、大筋合意に達した。日本は、農家への打撃を心配しながらも、2013年にアベノミクスの起爆剤にしようと参加した。
ところが、トランプ大統領の登場を機に、リーダーたるアメリカが2017年にTPPから離脱した。日本は、関係国に働きかけて、アメリカを除くTPP11の2018年末発効にこぎつけた。
2.中国のTPP加入の意義
もともと、TPPは、隠された狙いとして、中国排除があった。「新冷戦の脅威」を克服する戦略として、逆に、TPPに中国を取り込む手があるのではないか。中国のTPP加入について検討してみよう。
新冷戦の脅威①で述べたように、中国の覇権的挑戦の姿勢は、どれもこれも問題だらけであると思う。日本は、中国に問題点を指摘して改善を促し、TPPの加入資格が得られるレベルになってもらう必要がある。狭い了見で、品性に欠ける中国崩壊待望論は引っ込め、虎穴に入って大きな虎児(中国)を調教するくらいの気概を持ちたい。
中国のTPP加入の意義は、新冷戦の脅威の軽減であり、アジア経済圏の発展であり、日本の国益と生存領域の拡大である。
3.インド太平洋戦略の新しい枠組み
今、日米で、以前からあったアジア太平洋にインドをプラスした、インド太平洋という概念が提起されている。「自由で開かれたインド太平洋」戦略によって、台頭する中国を抑え込もうとしているようだ。
自由で開かれたという枕詞は、自由と民主主義の価値を重んじる国々がまとまって、共産主義や独裁国家を排除する意図である。しかし、価値観外交や、排除の論理からは何も生まれない。
インド太平洋構想に中国を取り込んで、インド洋からアラビア海、湾岸、アフリカに至る経済圏を構築したい。この際、枠組みからアメリカを排除するのではない。アドバイザーとして重要な役割をはたしてもらおう。
4.中国の「一帯一路構想」との統合
中国の「一帯一路構想」は、ユーラシア大陸の東と西を結ぶ「陸と海のシルクロード」と呼ばれる地域に、交通インフラ整備(高速鉄道の建設)などの大規模な投資を実施することによって、地域経済全体の底上げを図るというダイナミックな構想である。
日本は、2017年に「一帯一路」に関心ありと表明し、参加の準備をしている。そこで、前項で述べたインド太平洋構想と一帯一路構想を統合し、より強力でパフフォーマンスの高い経済圏を構築したらいかがでしょうか。中国と未来の大国インドを、日本が取り持つ形になる。
統合によって、新冷戦の脅威は軽減し、世界の恒久平和に向かって、一歩、近づくことができると確信する。
5. まとめ(筆者コメント)
①中国はTPP加入の過程で、自国の非関税障壁を改善し、節度ある大国に産まれ代われると思う。
②新冷戦の勃発で、中国は日本に秋波を送っている。今がアジアを一つにするチャンスである。
③間違っても、米日対中露が敵対する、一触即発の大冷戦の構図を作ってはいけない。地球が壊れる。
④「中国はすぐに崩壊する」、「日本は属国にされてしまう」、「政治体制が異なる国同士は交われない」、などの小児病的な俗論がはびこっているが、全くナンセンスである。
新冷戦の脅威 ⑤軍事力競争の動向 [平和外交]
新冷戦の脅威の一因となっている世界各国の軍事力や軍事費の動向を見てみよう。
1.世界軍事力ランキング(2018年版)
軍事力評価機関・Global Firepowerは、毎年、世界136か国の軍事力について、50以上の項目を総合的に評価して、軍事力指数を算出し発表している。2018年版のベスト10は下表のとおりである。陸海空軍の戦力や、保有天然資源も発表されているが、ここでは省略した。
6位までは核保有国であり、3位までと、4位以下には大きな差がある。韓国は日本より上位になっている。
順 位 |
国名 |
軍事力 指数 |
人口 (万人) |
兵士数 (万人) |
軍事費 (兆円) |
軍事費対GDP比率% |
軍事費の 増加倍率 |
1 |
アメリカ |
0.0818 |
32,662 |
208 |
64.7 |
3.15 |
2.00 |
2 |
ロシア |
0.0841 |
14,225 |
358 |
4.7 |
4.26 |
4279.54 |
3 |
中国 |
0.0852 |
137,930 |
269 |
15.1 |
1.91 |
22.54 |
4 |
インド |
0.1417 |
128,193 |
420 |
4.7 |
2.49 |
19.89 |
5 |
フランス |
0.1869 |
6,710 |
38.8 |
4.0 |
2.26 |
1.41 |
6 |
イギリス |
0.1917 |
6,477 |
27.9 |
5.0 |
1.83 |
1.58 |
7 |
韓国 |
0.2001 |
5,118 |
582 |
4.0 |
2.55 |
4.90 |
8 |
日本 |
0.2107 |
12,645 |
31 |
4.4 |
0.93 |
1.12 |
9 |
トルコ |
0.2216 |
8,084 |
71 |
1.2 |
5.60 |
? |
10 |
ドイツ |
0.2461 |
8,059 |
20.8 |
4.52 |
1.22 |
1.18 |
注1)韓国の兵士数のうち、正規軍は60万人で、残りは予備役。
注2)軍事費対GDP 比率と、軍事費の増加倍率はガベージニュースより転載。
注3)軍事費の増加倍率は、1992年から2017年までの25年間。ロシアはルーブル大暴落の影響。
注4)表にはないが、サウジアラビアの軍事費対GDP 比率はダントツの10.29%。
2.大国の軍事費は増えている
1992年から2017年までの25年間で、アメリカの倍増に対し、中国は22倍、インドは20倍、韓国は5倍に増えている。
ロシアはルーブル大暴落で数値は異常だが、軍事費対GDP 比率が4.26%と非常に高いので、実質では何倍かに増えているに違いない。
日本は1.12倍でほとんど増えていない。
3. まとめ(筆者コメント)
①トランプ大統領は、同盟国の軍事費を対GDP比2%にするよう要請している。これは、世界の軍拡を激化するものである。日本は安請け合いしてはならない。
②中国の軍事費は、すでに、15兆ドルに達しており、これからも増える勢いである。軍拡競争を緩和するため、日本はアジアの軍縮を主導する外交をやり、世界の軍縮につなげてもらいたい。
アジアの平和 ①南シナ海を平和の海に [平和外交]
前回まで、「新冷戦の脅威」シリーズで、米中新冷戦の現状を見てきた。新冷戦の脅威を踏まえつつ、アジアひいては世界に平和をもたらすために、日本は何をしたらよいか考えてみよう。
手始めは、アジアの軍縮である。アジアを軍縮の先進地域にしようではないか。
1.南シナ海は誰のものか
中国は南シナ海について、遠い昔の漢王朝の記録を根拠に、九段線を勝手に引いて領有権を主張しおり、7つの岩礁を埋め立てて、滑走路やミサイル基地を建設し、軍事基地化を進めている。
もともとこの海域は、何十年も前から、ベトナムや、フィリッピン等が領有権を主張し実効支配しており、その他の海域は公海であって、周辺各国にとって重要なシーレーン(海上交通路)である。
フィリッピンの訴えを受けて、2016年7月、常設仲裁裁判所が、中国のいわゆる「九段線」に基づく過剰な歴史的権利を否定する判決を出した。力による現状変更は国際法に照らしても認められない。
2.南シナ海は新冷戦の震源地
米国は、中国と貿易戦争を戦っているが、もっと深刻なのは、南シナ海問題である。南シナ海の軍事拠点化と「一帯一路」を、中国の覇権奪取のための軍事戦略と見定めて、米国は、あらゆる対抗措置をとると宣言している。
3.南シナ海を平和の海に
南シナ海問題を根本的に解決するために、筆者は次の通り提案する。
①南シナ海協力機構の立ち上げ
東南アジア諸国連合(ASESN)、中国、日本が参加して、南シナ海協力機構を立ち上げよう。
南シナ海をアジアのグローバル・コモンズと位置付け、周辺諸国の共有地として、資源や便益を共用するのである。
最近、中国は、フィリッピンとの間で、資源の共同開発を進めようとしているが、これを東南アジア全体に広げるのが良いと思う。
中国は、「みんなの物は自分のもの、自分のものは自分のもの」と主張し、威嚇と札束で他国を従わせようとする癖がある。正義を大事にするよう真心を込めて説得すれば、わかってくれる人はいると思う。
この構想は、上海協力機構(コラム参照)の海洋版である。日本は、米中の調停者になったつもりで、海域の平和増進のため機構の立ち上げに邁進したい。
②南シナ海行動規範の策定
東南アジア諸国連合(ASESN)と中国は、南シナ海の紛争予防のための仕組みとして、南シナ海行動規範(COC)の策定を進めている。李克強首相は、行動規範を3年以内に策定するとのべたが、法的起拘束力を持った、実効性と透明性のある規範を早急にまとめてもらいたい。
行動規範は、将来、前項の協力機構の協定の一部に統合されることになると思われる。
4. まとめ(筆者コメント)
①南シナ海の軍事基地化は、習近平政権になって急激に進んだと思う。習氏は、中国の夢・中華民族の偉大な復興のために、国家の富強、民族の振興、人民の幸福を実現するという。中華ナショナリズムとどう付き合うか、それは、戦略的互恵関係の構築しかない。
②米中貿易戦争は、近々、中国の妥協で終息するが、覇権戦争の方は長く続くと思う。間を取り持つ、日本の外交力が問われる。
③東南アジア諸国連合(ASESN)10か国も一枚岩ではない。ラオス、カンボジアは中国の子分、フィリッピンは半分子分であるが、ベトナム、マレーシアには骨がある。特に高齢のマハティール首相は、中国の札束支配を押し返そうとしている。
コラム 上海協力機構 中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8か国からなる多国間協力の枠組み。2001年に発足。政治、経済、文化面の協力のほか、軍事同盟の色合いも強い。
アジアの平和 ②日朝首脳会談の早期実施 [平和外交]
新冷戦の脅威を踏まえつつ、アジアひいては世界に平和をもたらすために、日本は何をしたらよいか考えてみよう。南シナ海の次は、北朝鮮の非核化である。
1.北朝鮮非核化の見通し
北朝鮮の核問題をめぐる米朝協議は、停滞している。北朝鮮は20~60個の核兵器や弾道ミサイルを保持しているが、これを保持したまま、これ以上生産しないことで米国と合意する公算が高いという。
このまま、米朝会談の成り行きを見ているだけでは、日本の外交はゼロである。
2.日朝首脳会談の早期実施
①会談の即時呼びかけ
北朝鮮の核問題について、日本は外交の失敗で孤立し、蚊帳の外に立たされている。米国の陰に隠れて遠吠えしているだけでなく、すぐにでも、日朝首脳会談の開催を呼びかけるべきだ。制裁の強化を叫んで、相手が音を上げるのを待っているだけでは、らちが明かない。
非核化はアメリカに頑張ってもらうとして、日朝交渉のテーマは次の2点であろう。
②拉致被害者調査団の派遣
拉致問題を米国大統領に依存する姿勢はいただけない。拉致被害者の身元調査のため、調査団の派遣を受け入れるよう、北朝鮮に申し入れるべきだ。拉致問題は解決済みという北朝鮮の姿勢を突き崩すには、粘り強い外交努力しかない。
③経済協力計画の提示
朝鮮半島の非核化を実現し、日本が、国交を回復した後の経済協力について、青写真を示して、金正恩氏の食指を動かす策に出よう。
1965年の日韓請求権協定で、日本は、無償3億米ドル、有償2億米ドル、民間融資3億米ドルを投下して、韓国経済を浮揚させた経緯がある。物価上昇を考慮すれば、その倍以上を提示してもよいのではないか。
これは平和のための投資と考えれば安いものである。それに、先手を打つことによって、復興需要の取り込みも期待できる。
3. まとめ(筆者コメント)
①朝鮮半島の非核化は必須
韓国の文大統領は、朝鮮半島統一に前のめりである。北朝鮮が核を持ったまま南北統一を果たすことは、日本にとって悪夢であり、許容できない。
②拉致被害者の帰還は最優先課題
2002年に拉致被害者5人とその家族が帰還したが、その後は全く進展がない。残りの拉致被害者帰還のため、日本は、国の威信をかけて外交努力をすべきだ。
③賠償金による財政赤字増大は心配無用
日朝平和条約締結の際に、賠償金を支払うのはやむを得ない。賠償金は平和のための投資であり、国の借金が増えるという心配は無用である。(コラム参照)
コラム 国の借金で破たんはウソ
(2017年9月の当ブログ野党再編⑦ 受け皿新党の金融政策参照)
国の借金は3月末で、1,071兆円、一人当たり850万円というが、政府の借金であって、国や国民の借金ではない。政府には資産もあるうえに、通貨発行権があるから破たんはしない。
デフレを完全に脱却していない今、デフレの悪循環を防ぐには、政府の財政出動が欠かせない。
物価が前年比3%程度上昇する好景気が定着までは、次の施策が必要。
①生産性向上のための技術投資の促進 ②減災投資拡大
③新規と補修のインフラ投資拡大 ④消費税増税凍結
⑤移民受け入れより、賃金アップで国民の就労意欲アップ。
これで、日本は、生産性が向上し、GDPが増えて国民が豊かになり、税収が増えて基礎的財政収支が均衡する。
安倍政権のプライマリーバランス黒字化、消費税増税より、参議院議員・山本太郎が叫んでいる、「反緊縮・財政出動」の方が正しい政策である。
アジアの平和 ③日韓関係の不都合な現状 [平和外交]
新冷戦の脅威を踏まえつつ、アジアひいては世界に平和をもたらすために、日本は何をしたらよいか考えてみよう。南シナ海、北朝鮮の次は韓国である。まず、日韓関係の不都合な現状を見てみよう。
1.慰安婦問題
朴槿恵政権の2015年12月、日本と韓国の外相会談で「日韓間の慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と表明した。そして、2016年7月、日本が10億円を支出して、「和解、癒やし財団」が設立された。また、ソウル在韓日本大使館前の慰安婦像を撤去するよう韓国側が努力すると表明され、一件落着したように見えた。
ところが、文在寅大統領は2018年9月、「和解、癒やし財団」の解散を表明、15年末の合意を破棄する可能性があると報道された。
2.徴用工問題
2018年10月、韓国の大法院(日本の最高裁に相当)は、新日鉄住金の上告を退け、元徴用工4人に4、000万円の支払いを命じた。
本件賠償請求訴訟は、2005年から始まり、1,2審は原告が敗訴したが、大法院が「個人請求権は消滅していない」との判断を示した結果、2013年、2審の再審で原告勝訴となった。大法院で5年間たなざらしの後、文在寅政権の催促を受けて、本年になって頭書の判決となった。
文大統領は、昨年、「個人請求権は消滅していない」という司法判断を尊重すると述べることで、大法院の判決に影響を与えた可能性がある。
今回の判決を受け、これから訴訟が乱発される恐れがある。
3.竹島領有権問題
2012年8月、李明博大統領が竹島に上陸し、一時間半滞在した後、島を後にした。日本の歴史問題への不信感に加え、自身の金銭がらみの不祥事をぼかす狙いがあったと言われている。
2018年11月、韓国の国会議員ら20人余りが、日本政府の抗議を無視して竹島に上陸し、警備隊員を激励したという。それに先立つ10月にも、国会議員ら13人が上陸しており、1か月の間に2回も上陸を敢行したことになる。
4.朝鮮半島統一の最悪のシナリオ
最悪のシナリオは、北朝鮮が核を保有したまま、南北が統一を果たし、朝鮮半島に核保有国家が出現することである。文在寅大統領の前のめりの外交姿勢を見ると、その可能性はあると思う。
日本は、核弾頭搭載のミサイル攻撃におびえて、「日本核保有論」が沸き起こり、東アジアが核兵器のるつぼにならないか心配である。
5.まとめ(筆者コメント)
①韓国人は、もともと自民族中心主義者で、「朝鮮民族」のアイデンティティで固まっている。
②韓国人は、日本の植民地支配に対し、「恨」の精神で、恨みを晴らすことを悲願としている。
③日本たたきを画策、実行し、快哉を叫ぶ韓国人が多数を占める事態は、絶対に避けねばならない。
④日本人は、平和を愛する民族に生まれ変わったことを、辛抱強く発信し、ともに未来を創るパートナーになれるよう、努力をしよう。