保守右派の論点検証③ 国防充実 [平和外交]
国防が必要なのは当然で、国際法で自衛権はどの国にも認められている。いま時、非武装中立はあり得ない。必要最小限の自衛策を準備したうえで、戦争のない状態(消極的な平和)から、さらに貧困や差別のない平和な状態(積極的平和)を長く維持するのが21世紀の外交のあるべき姿である。
保守右派の国防への思いが、果たして正当なのか検証してみよう。
論点1.国防軍の創設は保守右派の長年の夢である
自民党の憲法改正草案では、9条2項(戦力不保持)を削除して、「国防軍」創設を明記し、海外でも武力行使が無条件にできることになる。これは、日本会議の基本方針である「国防充実」と同じで、保守右派の切望するところである。
検証:国防軍になると、自衛隊時代の①「自衛のための必要最小限の実力」という制約がなくなり、②海外に出動して武力行使が無条件で可能になる。
日本は軍備増強の歯止めをなくし、戦争のできる国から戦争をする国に徐々に変貌する恐れがある。憲法九条を守り、抑止より安心供与を重視した平和外交を望む。
論点2.北朝鮮の核開発や中国の核保有に対抗するには日本も核武装が必要だ
稲田防衛大臣は2014年に雑誌の対談で、日本は国家戦略として独自の核保有を検討すべきだと発言した。北朝鮮の核開発が2006年に始まって、3度目の核実験があった直後のことである。(先日5度目があった)
検証:日本はアメリカの核の傘に入って、非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)を守っている。「議論せず」を加えて四原則という説まである。
日本が核保有を宣言したら、曲がりなりにも機能している世界の核拡散防止体制が崩壊し、安全保障体制が大混乱に陥る恐れがある。
日本は唯一の被爆国として、国民の核忌避感が強い国である。政治家は核保有を考えるより、核廃絶や、核実験禁止の運動に邁進してもらいたい。
8月の当ブログ「核廃絶を先頭に立って進めてください」参照
コラム 軍備拡張を急ぐ中国に、専守防衛の自衛隊は太刀打ちできるのか心配している人が多い。そんな人に最適なガイド本がある。「自衛隊の最強装備2015」(双葉社)である。最強装備の代表として、陸自に「10式戦車」、海自は「あたご型イージス護衛艦」、空自にはステルス戦闘機「心神」などがある。心配はないようだ。
4月の当ブログ「武器輸出で中国包囲網?」参照
保守右派の論点検証④ 愛国教育 [平和外交]
日本は戦前、皇民化教育と称して徹底的な国家に対する愛国心教育を実施した。“鬼畜米英”を標的に、青少年に精神論偏重の教育を施し、無謀な戦争に駆り立てた。
戦後はこの反省に立って昭和1947年に教育基本法が制定され、民主的な教育制度が実施された。日本教職員組合(日教組)が革新勢力と組んで、イデオロギーに傾いた教育を志向し、文部当局と軋轢が生じる場面もあったが、1989年の冷戦終結以後は革新勢力の退潮とともに、やや沈静化している。
2006年に、教育再生を目指して教育基本法が改定され、教育の基本理念として、道徳心、自立心、公共の精神が条文に盛り込まれた。
保守右派の愛国教育への思いが、健全な青少年の育成につながるか検証してみよう。
論点1.祖国への誇りと愛情を持った青少年を育成しよう
憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される」とうたっているが、これが、個人主義の行き過ぎにつながった。2008年に改訂された学習指導要領に規定するように、国や郷土を愛する青少年を育てることが最重要である。
検証:愛国心は国と自己を一体のものと感じる際に生じる愛着感であるが、しばしば排外主義や国家主義に取り込まれることがある。
健全な愛国心を持った青少年を育成するには、戦前戦後の現代史の裏も表も包み隠さず教えるべきである。現代史の学習時間が取れなかった、教師が政治がらみの微妙な問題を避けたなどは、言い訳にもならない。また、教師の教え方について、生徒から密告する制度を設けると聞くが、すえ恐ろしい発想である。
論点2.日本に誇りを持てる「新しい歴史教科書」を子供たちに届けよう
大東亜戦争は日本の自衛戦争であり、アジア開放の戦争であった。また、南京事件や従軍慰安婦は幻で、過去の日本を貶める言いがかりである。自国の歴史・伝統や文化を蔑ろにした国の未来に繁栄はない。以上は「新しい歴史教科書をつくる会」の主張である。
検証:歴史修正主義的な主張である。歴史修正主義は、すでに確定している歴史事実について、自身のイデオロギーに沿って、なかったように主張したり、誇張、ねつ造、改ざんしたりすることで、歴史否認主義ともいう。
向き会いたくない過去があると、人は攻撃的になり、自己正当化したくなるものだ。しかしこの気持ちを前向き、外向きに転換しない限り、国際社会の理解は得られない。
日中韓の有識者間で、東アジアの歴史を共同研究すべきである。研究成果は各国の教科書に載せて、正しい歴史認識を持った未来志向のアジア人を育てたい。
8月の当ブログ「歴史修正主義的な言論は封印してください」参照
コラム 2004年の秋の園遊会で、今上天皇が招待者との会話で、「学校での日の丸掲揚と君が代斉唱は強制になるということでないのが望ましいですね」と述べられた。
招待者は愛国心を陛下に売り込んだつもりであったがかわされた。陛下をこのように政治利用するのはご法度である。日本人は国に一旦緩急あれば一夜にして皆、愛国者になってしまう民族である。そんな事態は、ふたたび、見たくはない。
保守右派の論点検証⑤ 家制度の復活 [平和外交]
保守右派の論点検証⑤ 家制度の復活
家制度とは1898年(明治31年)に民法に規定された家族制度のことで、戸主に家督相続させ、家族の扶養義務と家族の婚姻、入籍などの同意権を与えていた制度である。江戸時代の武士階級の家父長制的な家族制度をなぞっている。この家族制度は当時、中央集権国家の構成単位となり、富国強兵へとつながった。
戦後、婚姻の自由、夫婦の平等などを定めた憲法24条に反するとして、新民法では、家制度は廃止されたが、家制度の復活を目指す勢力は数多い。
保守右派の家制度復活への思いが、時代の変化に合っているか検証してみよう。
論点1.家族は互いに助け合って国家を形成する
自民党憲法改正草案では、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」という条文を新設する。
この家族条項を設けたのは、祖先から連綿と続く縦の家族制度を復活することで、日本らしさや伝統を維持し、美しい日本を取り戻したいからと言う。
検証:戦前の家制度は女性差別の温床であった。嫁姑の確執に泣いた女性は数が知れない。高度経済成長から都市への人口移動があり、核家族化が進んだ現在、家制度が復活する余地はない。
社会に格差が広がっているのに、その解決を家族だけに押し付けるのは間違っているのではないか。家族の助け合いを憲法に入れようとする人たちは自分たちが思う「正しい価値観」で国民を縛ろうとしている。
社会保障を安上がりに済まそうとする陰謀はやめて、家族が助け合えるように国は条件を整える方に力を注いでほしい。
論点2.夫婦別姓は家族の解体につながる
夫婦同姓を定めた民法570条が憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は合憲と判断した。保守右派の人々は、夫婦別姓は家族の解体につながると考えている。
検証:現在、男性の姓を名乗る家族が97%と言われているが、夫婦別姓を選べる制度を求める人たちで、家族の解体を望んでいる人はいない。
夫婦別姓は男女平等を形にしたもので、男女の不公平感の緩和が期待される。世界経済フォーラムの最近の発表によると、日本の男女格差は144カ国中、111位に悪化したそうである。
夫婦別姓は女性の社会進出を促進するメリットもあるが、子供の姓の選択が悩ましい問題でもある。
コラム 地球を観察した時、そこに生息する動植物の多様性は驚異的である。人間だけ一色に染めて、多様な生き方を否定することはできない。多様性こそ、かけがえのない価値であると思う。日の丸はシンプルで、大好きだが、赤一色に釈然としない時もある。
保守右派の論点検証⑥ 全体検証 [平和外交]
5回に分けて保守右派の論点を検証してきた。記事にしなかった論点も含めて、それぞれの政治課題について保守右派の思想と政策、その政策が実施された場合の社会的な影響や問題点を考察してみた。
国際的孤立を招く政策、無駄に敵を作る外交、女性差別を助長する政策は、絶対に避けなければならないと思う。詳細は下表を参照願いたい。
政治課題 |
保守右派の思想と政策 |
影響・問題点 |
皇室 |
天皇神格化、元首化、 行き過ぎた伝統固守 |
国際的孤立 |
憲法 |
押付け憲法をやめ自前憲法を切望、 憲法九条2項廃止 |
中国・韓国との外交不全 平和主義の看板よごし |
国防・軍事・ 安全保障 |
軍事優先で抑止力強化に固執、 日米同盟強化一辺倒、 中国を仮想敵とする外交、 集団的自衛権容認、 核武装の画策、武器輸出 |
軍拡競争の激化、 軍事費増大 無駄に敵を作る アジア外交不全 |
教育 |
国旗国歌の強制、愛国心の押付け、 「誇りの持てる歴史教科書」作り |
ナショナリズム蔓延 中国・韓国との外交不全 |
家族観 |
家族は互いに助け合え(家父長制復活)、同性婚禁止、夫婦同姓(夫婦別姓反対) |
女性差別 介護の家族負担化 |
アジア 外交・ 歴史認識 |
「アジアを開放した」など歴史を美化、名誉の回復に固執、東京裁判批判(A級戦犯はぬれぎぬ)、靖国参拝に拘泥、従軍慰安婦謝罪拒否 |
国際的孤立 アジア外交不全 |
国際化・ 国際貢献 |
国際主義より民族主義、 自衛隊の海外派兵合憲、移民禁止 |
民族主義、 排外主義の跋扈 |
人権 |
復古的国家主義 女性の社会進出にやや消極的 |
人権軽視、 日本の国際的評価の棄損 |
言論 |
不都合な言論の抑制、 メディア規制は必要 |
同調圧力、忖度、 上目遣いの社会 |
保守右派の論点検証⑦ 保守とリベラルの思考傾向 [平和外交]
保守右派の論点検証の最後に、保守とリベラルの思考傾向を比較考証してみよう。もちろん一般論で、100%ではない。
筆者はリベラルであるが、左翼ではないと自認している。保守右派の思考傾向には下表のような問題があると思う。
要約すると、保守右派の人々は、寛容でなく、嫌いなものは遠ざけ、頑固である。外交で成果は上げにくいのではないかと心配である。詳細は下表を参照してほしい。
思考のケース |
保守(特に右派) |
リベラル(左翼を含む) |
現状認識 |
現状認識に両者であまり差はない。例えば、中国の覇権的な海洋進出や、中国国内の人権侵害などには怒りを感じていが、その先の対応には大きな差がある |
|
問題解決 |
当面の対策を考えて戦術を練る。 現状に合わせる。 |
目的志向で大局的に戦略を練る。 現状を変えようとする。 |
観察 |
自分の見たいようにものを見る |
見たくないものも見て対策する |
嫌いなものへの対応 |
遠ざける。許さない。 |
近づく。許そうと努力する。 壁を作らない。寄り添う気持ち。 |
性格 |
寛容でない。我慢がきかない。 内省的でない。欲張り。頑固。 |
寛容である。我慢強い。 内省的である。欲張らない。 |
認識・欲求 |
現実的である。認知欲求が強い。 |
自信家で、理想主義的である。 |
政権への対応 |
強い政権を好み、縋りつく |
覇権は好まず、お追従はしない |
良いところ |
正義感が強い(だが、正義がすべて真実ではない)。 |
自分の弱さを知っている。 |
21世紀の外交戦略① ドゥテルテ大統領に学ぶ [平和外交]
アメリカでトランプ氏が大統領戦に勝って、世界中が驚いている。トランプ氏は選挙戦の間、「アメリカ第一」の立場から、保護貿易主義、TPP即時撤退などを唱えてきた。
日米同盟については、米軍駐留経費の全額負担、日本の核武装推奨などの主張から、同盟が揺らいでいる。日本の外交にとって、このようなトランプ大統領の出現は、考えようによっては絶好のチャンスである。
フィリッピンのドゥテルテ大統領が、今年10月に中国を訪問し、同盟国の米国と距離を置き、南シナ海問題を一時棚上げして、中国との関係強化を訴えて多額の経済支援を勝ち取った。
日本はフィリッピンほど身軽ではないが、ドゥテルテ大統領に倣って、日米同盟一辺倒のアメリカ従属外交をやめ、アジアのためのアジア人による、新機軸の外交を進めるべきである。
21世紀にふさわしい日本の外交戦略について、国連外交、安全保障、経済、環境などの課題別に、当ブログの後続の記事で考察してみよう。
コラム ドゥテルテ大統領は、相次ぐ過激発言でフィリッピンのトランプと呼ばれている。
オバマ米大統領に「地獄に落ちろ」と暴言を吐き、「米国に犬のように扱われてきた」、「米国と決別する」という。
アメリカ嫌いの背景には、ダバオ市長時代から、駐留米軍との数々のトラブルや、過激な麻薬犯罪対策を批判する欧米への反感があるようだ。
南シナ海の権利をめぐって、国際仲裁裁判所に中国を訴えて、勝利した当事国・フィリッピンの大統領が、中国を訪問し、「南シナ海は難しい問題で今は語る時ではない」、「対話を通じて南シナ海問題をうまく処理したい」、「兄弟のような中国を永遠の友人としたい」などと発言した。
南シナ海・スカボロー礁で、中国によるフィリッピン船への妨害が続いていたが、ドゥテルテ大統領の中国訪問後は妨害が止まったという。大統領に対する国民の支持率は非常に高い。21世紀の外交戦略③ 地域連合の重要性 [平和外交]
前回の当ブログで、世界政府の構想を総論として述べた。これから各論に入るが、地域連合が最重要なので真っ先に取り上げる。
第一次世界大戦後、地政学的見地から世界を四つの地域連合に分けて政治の安定を図る提案があった。「遠い親戚より近くの他人」の諺のとおり、近隣諸国の共存共栄をベースにした地域連合の構築こそ平和への処方箋である。
筆者が提案する21世紀の地域連合は、米州連合、アジア連合、欧州連合の三つであり、構成国は前回ブログに記載したとおりである。各地域連合は、国連総会の傘下に入って、緩やかに統合されることになる。
各地域連合は世界政府の小型版であるが、三つの地域連合は、それぞれの地域の環境や特性に合わせて、それぞれの組織・機能を持ち、進化・成長を目指すのが良い。
コラム 「ブレークスルー思考」
グローバル化など、激変の時代には、過去の延長線上に未来はない。社会の制度を含めて、万物はシステムの集合で、階層構造をしている。各システムには目的がある。目的の目的を問い続けていくと、究極の目的に到達でき、目的に適った問題解決を果たすことができる。
ここで紹介する「ブレークスルー思考」は、目的展開、アイデア展開、構想策定、実施計画、実施の工程により、問題解決を構想し、構想を実現するための手法である。
この手法は身近な仕事から、難しい政治のテーマにまで適用可能である。
<目的展開の参考事例>
話し合う→相手を理解する→交流する→助け合う→生活を豊かにする→平和で豊かな社会を作る→世界中を平和で豊かにする→地球を楽園にする
さしずめ、21世紀の外交戦略のターゲットコンセプトは「世界中を平和で豊かにする」となるであろう。実現する夢を大事にしたい。
21世紀の外交戦略④ アジア連合のあり方 [平和外交]
21世紀の外交戦略の目玉はアジア連合の構築である。アジア連合の理念や課題について、後続の記事を含めて考察してみよう。
1.アジアの安全保障環境の現状
安倍政権は中国を仮想敵国とみなした抑止政策に熱心である。アメリカと約束した安全保障法案を、2015年9月に強引に通し、集団的自衛権を行使できるようにした。日米同盟強化一辺倒の外交で、アジアの安全保障の緊張を逆に高めている。
一方、中国は南シナ海に軍事施設を作り、ミサイルを配備するなど、海洋進出を強化している。日米同盟を仮想敵と定め、自国を防衛するため、最前線を前に構築したつもりであろう。質は異なるが、日本と同じことをしている。
東アジアは軍拡競争の場になりつつあると言わざるを得ない。
2.地域連合創設による安心供与の外交
安全保障は抑止と安心供与が車の両輪である。いま、日中間で必要なことは軍備強化による抑止偏重の外交ではなく、安心供与の外交である。
日本は近隣諸国の懐に飛び込んで、地域のことは地域で解決するための、地域連合(共同体)の創設という大きな目標に向かって外交力を結集すべきである。
地域ごとの平和の総和が世界の平和につながるのだと思う。
3.アジア連合の構成国
アジア連合の構成国は、日、中、韓、北朝鮮、東南アジア、南アジア、ロシア、中央アジア、オセアニアとするべきである。
ロシアは中国に向き合う際の、緩衝、バランスオブパワーとして役立つと思う。南アジアに含まれるインドは、将来中国に並ぶ大国になり、アジアの牽引役になると期待される。
4.アジア連合の求心力
共同体や連合への求心力は、共通の価値観であり、加盟動機となるものある。安全保障、経済成長戦略、環境保全、防災対策、人権尊重、信教の自由、文化尊重などが考えられる。
人権などの価値観で異なる国があっても、取り込んでいくべきで、排除していては何も始まらない。
5.アジア連合の進め方
人は、向こう三軒両隣と仲良くして、居心地の良い地域環境を作ることが生活の知恵というものである。遠隔地の知人に縋りつかないと安心できないような生活設計は間違っている。
日本は、東アジアの国、特に中国と仲良くして、アメリカとは遠い親戚の関係に徐々に移行するのが良いと思っている。
21世紀の外交戦略⑤ 日米同盟の見直し [平和外交]
アジアの安全保障環境の現状については、前回のブログで、東アジアは軍拡競争の場になりつつあると述べた。この厳しい環境を劇的に変える外交戦略が、日米同盟の見直しである。
1. 日米同盟一辺倒は思考停止
安倍首相は、「日米同盟は普遍的価値で結ばれた、ゆるぎない同盟である」と述べていて、他の選択肢や可能性については全く考えず、思考停止に陥っている。
日本は、戦後70年のすべてのしがらみを脱ぎ捨て、頭を切り替えて、世界平和の新しい枠組み作りに取り掛かりたい。これぞ、21世紀の戦略外交の出発点である。
2. 対米独立のシナリオ
筆者はアメリカが嫌いではない。日本から多くの収奪もしたが、恩恵も与えてくれた。相手がロシアならこうはいかなかったと思う。アメリカと決別するのではない。徐々に距離を置いて、遠い親戚のおじさんのような付き合いになるのが良い。
トランプ氏が次期大統領に当選し、「アメリカ第一」の、孤立主義を唱えている。いずれ、日本に防衛費の倍増や、装備品の買い増しを迫ってくるであろう。
日本はこれを絶好のチャンスととらえ、機先を制して次のような、アメリカ従属をやめる外交政策を掲げてトランプ政権と交渉しよう。
① 自主防衛を推進する(徐々にアメリカ依存をやめる)
② 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に日本も加入する(環太平洋経済連携協定・TPPは見送り)
③アジア連合構築の準備を開始する
「お願い」外交ばかりでは、トランプ流外交に付け込まれるだけである。
日本がアジアに根を張り、軍事に頼らずに、アジアの平和に貢献するという理想を熱く語れば、突破口は開かれると思う。嫌われる勇気を持ち、アメリカの要人にも働きかけて、理解者の輪を広げてゆきたい。
3.日米同盟の見直しの成果
日本は明治以来、西欧にあこがれ、マネをしてそれなりの成果を上げてきた。アジアの国々を下に見て、アジアの盟主を夢に見て、結局は大失敗をした。そして、戦後は70年間アメリカ従属に甘んじてきた。
日本がアジアの一員として生きる決意をした途端、日本は歓迎され、アジアには平和がもたらされる。すなわち、日本は対米独立を果たし、中国は軍拡を抑制でき、北朝鮮は火遊びをしなくなるであろう。21世紀の外交戦略⑥ 対中国外交 [平和外交]
前回の当ブログで、日米同盟を見直して、アメリカ従属をやめる提案をした。21世紀の外交戦略の目指すところは、アジア連合(共同体)であるが、その手始めは中国の説得である。
1.安倍首相は南京を訪問しよう
先日の安倍首相の真珠湾訪問は大変評判が良かった。首相は真珠湾の犠牲者を追悼し、不戦の誓いを新たにした。寛容の心がもたらした「和解の力」が、日米を希望の同盟に導いたとも述べた。ところが、アジアの戦争被害者からは厳しい声が聞こえてきている。
首相は今年早々に、南京を慰霊訪問すべきである。南京大虐殺30万人説は捏造としても、日本軍に戦時国際法違反があって、多くの犠牲者が出たのも確かである。慰霊訪問によって、日中間に張った厚い氷を解かし、アジアの平和構築の出発点にすることができる。
2.アジア連合の交渉開始
安倍政権は中国を仮想敵とみなし、日米同盟強化一本やりの政策で、アジアの安全保障環境を悪化させている。軍備を増強して覇権的な動き強めている中国は、日米同盟に脅威を感じて、そうしているようだ。
アメリカに距離を置くと表明するだけで、中国はアジア連合(共同体)の話に乗ってくると思う。次項で述べるCICSは、実は、アジア連合(共同体)の卵のようなものである。
3.アジア信頼醸成措置会議(CICS)への加入
CICSはアジアの安全保障に関わる多国間フォーラムで、1993年に発足し、現在26か国が参加している。他に、日米を含め13か国がオブザーバーである。4年に一回首脳会議が開催され、現在、中国が議長国である。
2014年の会議で習近平主席は、「アジア新安全保障観」という概念を表明した。「アジアの人民には相互協力を強化することにより、アジアの平和・安定を実現するだけの能力も知恵も備わっている」と述べた。
日本はオブザーバーなどと言わず、正式加盟国として名乗りを上げるべきである。こんな機会を逃す手はない。ちなみに、韓国はすでに加盟している。
議長国の中国には、アジア・リバランス(回帰)を目指すアメリカと、日米同盟を牽制する意図があることは確かだが、21世紀の日本の外交戦略の方向と一致しており、日本はCICSを積極的に利用すべきである。
中国主導のCICSに加入して、中国従属になってしまうと恐れるのは、敗北主義者の言い分である。
21世紀の外交戦略⑦ 中国脅威論の論点と反証 [平和外交]
中国脅威論の書籍や言説が巷にあふれている。下表のとおり、脅威論の主な論点を取り上げて反証を考えてみた。次回、中国脅威論の克服法を論じる予定である。
中国脅威論の論点 |
中国脅威論への反証 |
① 中華思想の復活を狙っている。 (中国を世界の中心とみる思想。漢の武帝以来の華夷秩序の実現を目指す対外膨張戦略で、中華民族の偉大な復興・中国の夢と言われている) |
日本では、聖徳太子が「日出づる国」の国書を送り、中華帝国の属国ではないと宣言し、そうなった。 政権が統治の理念を持つのは悪くない。周辺国との共栄なら良し、覇権的な害があれば抗議するだけだ。 |
② 国防費激増 (2016年度円換算18兆円、日本の3.7倍。5年連続二桁増) |
日米同盟が中国を仮想敵と定めて対抗措置をとっているので、中国の軍備増強は今後も続くであろう。 |
③ 航空母艦の増強 遼寧就航、二隻新造中。示威的な運航を見ると脅威を感じる |
中国海軍はまだ弱小である。10年先は油断できないが、平和外交に希望を託すことができると信じる。 |
④ 東シナ海ガス田にレーダー設置。 日中中間線の中国側に16基のガス田プラットフォームを設置した。その1基にレーダーが確認された。 |
小型レーダーのため、軍事施設ではないと思われる。日中共同開発を提案し実現すれば脅威ではなくなる。 |
⑤ 南シナ海の軍事施設化 中国は南シナ海に二本の九段線を引いて、内側の7つの岩礁を埋め立てて、軍事施設化をしている。 |
フィリッピンのドゥテルテ大統領が、南シナ海問題を一時棚上げし、中国との関係強化を訴えて外交に成功した。 この例を参考に、南シナ海を周辺国のグローバル・コモンズ(共有地)と位置付け、資源や便益を共用する仕組みの構築を働きかけるべきである。 |
⑥ サイバー攻撃の脅威 中国には数千人規模のハッカー部隊が活動していると言われている。 |
どの国にもサイバー空間の情報漏洩を防御する組織があり、攻撃に熱心な国もある。備えあれば患いなしである。 |
⑦ 宇宙要塞計画の脅威 「神舟7号」で宇宙遊泳し、無人探査機で月面軟着陸に成功している。宇宙空間で標的を攻撃できる軍事衛星も持っている。 |
将来の脅威を仮定して備えることは必要であるが、平和外交で、友好関係構築の方が先決である。 日本は宇宙開発を規制する国際条約締結を主導すべきである。 |
21世紀の外交戦略⑧ 中国脅威論の狙いと克服法 [平和外交]
安倍首相は、最近、フィリッピン、インドネシア、ベトナムを訪問した。中国脅威論に立脚し、中国封じ込めを説いて回ったと思われる。周辺国の訪問外交が悪いとは言わないが、別の道はないものか考えてほしかった。
筆者は、中国脅威論を唱えている人々の「狙い」を、下表のように、いくつか考えてみた。どれも勘違いや思い込みで、別の道が大きく開けていると思う。
表の右の欄は、筆者が考える中国脅威論の克服法である。実は、当ブログの過去記事の大半は、中国脅威論の克服法であり、戦略的平和外交の手段であると思っている。
中国脅威論の「狙い」 |
中国脅威論の克服法 |
中国嫌いの顕示 中国嫌いが高じて、過剰な恐れを感じ、脅威を訴えている。 真の狙いは中国封じ込め |
よく知らないために相手を毛嫌いすることがある。多様なチャネルを使って、よく知り合うことで、その気持ちは緩和できる。 |
憲法改正願望 中国の脅威を煽って、憲法九条改正の民意を作ろうとしている。 普通に戦争ができる国になれる。 |
平和憲法を堅持する方が、平和外交がやりやすくなり、中国の脅威は軽減できる。扇動に乗って、戦争ができる国にしてはならない。 |
軍備拡張 中国の軍備拡張に対抗して、その脅威に備えるため、日本も軍備拡張を強いられている。 |
軍備拡張競争はどちらかが先に降りれば、緩和されるものである。日本が先に平和外交を進めて、悪循環を断ち切るべきである。 |
日米同盟強化 中国脅威論の論者は、ありもしない脅威に備えるため、アメリカに縋りつこうとしている。 |
中国は日米同盟強化に脅威を感じているようだ。日本は抑止政策の強化より、安心供与の平和外交で、アジアの緊張を緩和できる。 |
パワーゲーム信仰 中国脅威論者は、力には力で対抗するという、パワーゲーム礼賛者が多い。 |
パワー政治はよくない。経済でつながっている国に、自滅覚悟で、いきなりミサイルを撃ち込むことは考えられない。 過剰反応はやめよう。 |
21世紀の外交戦略⑨ 中国脅威論と中華思想 [平和外交]
前回、前々回の当ブログで、中国脅威論の論点と反証、狙と克服法について述べた。今回は中華思想との絡みについて考察してみよう。
1.中華思想の意義
中国・漢民族を世界の中心とみる思想。漢の武帝以来の、華夷秩序の実現を目指す対外膨張戦略で、遍く天下(世界)は王土(中国領)と考えられている。いまでは、中華思想は中華民族の偉大な復興・中国の夢の対象になっている。
2.中国史から見た中華思想
中国の主な王朝は、秦、漢、隋、唐、元(モンゴル帝国)、明、清である。このうち、隋、唐、元、清は、遊牧騎馬民族による征服王朝であった。異民族に統治されて、逆に、栄えた時代であったが、被害者意識から、中国人のコンプレックスの元になっていると思われる。
近代になって、西洋列強の植民地とされ、小国・日本に蹂躙されて、「中華思想」は形無しにされた。
3.中華思想の問題点
中華思想は敗者のコンプレックスを内包していて、事実に向き合うのでなく、都合の良いところだけ取り込む傾向がある。権力の一元化や、思想的同化を志向し、他民族、他文化、宗教にたいして不寛容になりやすい。
政権が統治の理念として中華思想を掲げるのは悪くないが、周辺国との共存共栄を損なう覇権的な行動は慎まなければならないと思う。
過去の栄光に縋らなくても、十分やっていける国である。中国の、今後の発展の足かせにならなければと、危惧している。
習近平主席に告ぐ① 新安全保障観 [平和外交]
貴国は1996年に開催された「アセアン地域フォーラム」(ARF)において、「新安全保障観」という概念を提唱されました。この概念には、後に、「相互信頼」、「相互利益」、「平等」、「協業」という立派な理念が付与され、アジアの安全保障協力の枠組みとして期待されてきました。
その後、2014年のアジア信頼醸成措置会議(CICS)で、習近平国家主席は、「新安全保障観」を念頭において、「アジアの人民には相互協力を強化することにより、アジアの平和・安定を実現するだけの能力も知恵も備わっている」と述べました。
筆者は、この「新安全保障観」をアジアのおける多国間安全保障のシステムとして、実効性のあるものにするのが、アジアの平和にとって喫緊の課題であると考えています。21世紀外交戦略を構想するとき、安全保障にとっては、抑止より安心供与が何倍も大事です。(2016年7月の当ブログ「中国国民に告ぐ」参照)
平和を愛する日本人として、習近平国家主席に、アジアの安全保障について、下記の通り、いくつか提言したいと思います。同時に、日本国内において、安倍晋三首相に対して同様の提言をし、日中双方の信頼醸成の雰囲気づくりに努力します。(2016年6月の当ブログ「安倍晋三総理に注文する」参照)
<<習近平国家主席に告ぐ>> 提言内容の詳細は後続記事参照。
1.覇権主義の自制
覇権的勢力拡張主義は自制してください。結局、高くつくことになります。
2.国民感情の制御
国民のナショナリズムを煽ったり、それを利用したりしないでください。後戻りできなくなる恐れがあります。
3.多国間安全保障
アジア多国間安全保障の協議の場に、安倍晋三首相を誘い込んでください。日本が対米従属外交を脱却するきっかけになります。
習近平主席に告ぐ② 覇権主義の自制 [平和外交]
貴国と日本は1972年に、日中共同声明に調印し、主権・領土の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和的共存のいわゆる平和五原則を確認しあいました。また、同声明の第7項で、両国はアジア・太平洋地域の覇権を求めないと約束しました。1978年の日中平和友好条約の締結時にも、この平和五原則が再確認されました。
貴国は最近、東シナ海におけるガス田開発で、日中共同開発の合意を無視して独走しており、そのうえ、尖閣諸島をめぐって、日本の領海侵入を繰り返しています。
また、貴国は南シナ海で領有権を主張し、岩礁を埋め立てて軍事施設を建設して、最近、フィリッピンの訴えを受けて、常設仲裁裁判所が貴国のいわゆる「九段線」に基づく過剰な歴史的権利を否定する判決を出しました。世界の多くの国がこの判決を支持し、貴国の対応を見守っているのです。
貴国はどこへ向かおうとしているのでしょうか。貴国の海洋進出が国是であることは理解していますが、力に頼り、力だけしか信じない国づくりは、結局は破たんします。
帝国の衰退は何度も繰り替えされた歴史の真実で、しかもスピードは速くなってきています。大英帝国の衰退に続いて、アメリカ帝国が衰退に向かって進んでいます。代わって、貴国が力をつけて、中華帝国の時代を築こうとしているのでしょうか。
権力は腐敗します。貴国がこの権力をどう使うか世界が注視しているのです。
そこで、筆者は次の通り提案します。
1. 尖閣諸島(中国名・魚釣島)は日本に預けてください
1970年代に尖閣周辺で、石油資源埋蔵の可能性が取りざたされて以来、貴国は領有権の主張をし始めました。2012年に日本が尖閣諸島を国有化して以来、毎日のように、尖閣周辺の領海侵入を繰り返しています。
日本政府は、尖閣は日本の固有領土であると主張していますが、筆者は世界平和のためになるなら、一時棚上げし、将来、共同開発により共存共栄を図るのが最善と考えています。合意ができるまでは日本に預けてください。
2. 東シナ海のガス田協同開発に日本を誘ってください
貴国は、日中中間線の中国側において、16基のガス田プラットフォームを建設し、採掘を続けています。2008年に合意した共同開発の構想が停滞し、「平和、協力、友好の海」の理念がかすんでしまいました。
尖閣問題が絡んでいるようですが、対立を乗り越えて、ガス田共同開発に日本を誘ってください。
3.南シナ海を周辺国の共有地に指定してください
南シナ海の「シーレーンの確保」は、アジアの多くの国にとっても死活問題であり、ベトナムやフィリッピンなど、島の領有を主張している国もあります。
そこで、南シナ海を周辺国の共有地(グローバル・コモンズ)と位置付け、資源や便益を共用するのです。「南シナ海シーレーン基金」を作って、各国に応分の出資を求めるのです。貴国がすでに支出した費用の一部を肩代わりすることになります。日本は航行の自由以外の権利は主張せず、海域の平和増進のための支援を惜しみません。
このような提案を快く受け入れるのが、大国となった貴国の未来志向のふるまいではないでしょうか。覇権主義は一定の限度を超えると、限界効用逓減の法則が働いて、利益に比べてコストが急激に高くなるものです。かつての日本の轍を踏まないで下さい。
習近平主席に告ぐ③ 国民感情の制御 [平和外交]
政治の目標は、国防のほかは、国民の自由・平等などの基本的人権の保障であり、国民の幸福の最大化です。これは、政治体制が違っても、軽視してはならない普遍的価値です。
健全なナショナリズムは、この普遍的価値の実現と、国の発展の力になりますが、他民族の人権や自由を抑圧する排外的なナショナリズムは悪しきナショナリズムです。国民のナショナリズムを煽ったり、それを悪用したりしないでください。
この悪しきナショナリズムを抑制する方法について、次の通り提案します。
1.健全な青少年の育成には真実の情報提供を
貴国は1989年の天安門事件以後、学校やメディアを通じて、抗日教育を実施しました。若者の関心を外に向けて、不満をそらす狙いがあったことは否定できないと思われます。現在の日本は、戦前の日本と全く異なります。早急に誤った抗日教育はやめていただきたい。すでに誤ったイメージを刷り込まれてしまった若者には、暗示を解くため、真実の情報を丁寧に伝えてください。
同じアジアに生きる人間として、一度だけの人生を、未来志向と、共存共栄の精神で、明るく生きていきたいと思います。
2.海外留学生の相互受け入れの促進を
日本では、2020年までに、海外留学生を18万人に、受け入れ留学生を30万人にそれぞれ倍増する計画があります。留学制度は、グローバル人材の育成と、国民同士の相互理解に役立ちます。無理解に基づく反目ほど、害悪はありません。
かつて、孫文や魯迅など貴国の俊英が、日本留学を契機に日中関係を開いた事例がたくさんあります。貴国でも、留学生の派遣と受け入れに力を入れてはいかがですか。
3.民間交流事業の促進に軍事予算を回してください
遠くの親戚より近くの他人ということわざがあります。日本人にとっては、隣国である中国の人々と仲良く生きることが一番望ましいことです。そのためには、国民同士がお互いに交流し、知り合うことが非常に大切です。
貴国は5年連続で軍事費を増やしています。軍事予算の一部を削減して民間交流事業に回してください。民間交流事業には、安全保障上、大きな抑止効果があります。
コラム ナショナリズムとは、国家の統一・独立・発展を推し進めることを強調する思想または運動。民族主義、国家主義、国民主義、国粋主義などと訳されます。(広辞苑)
習近平主席に告ぐ④ 多国間安全保障 [平和外交]
平和を愛する日本人として、習近平国家主席に、アジアの安全保障について、下記の通り、いくつか提言したいと思います。同時に、日本国内において、安倍晋三首相に対して同様の提言をし、日中双方の信頼醸成の雰囲気づくりに努力します。
1.アジア信頼醸成措置会議(CICS)に日本を招待してください
CICSはアジアの安全保障に関わる多国間フォーラムで、1993年に発足し、現在26か国が参加していて、他に、日米を含め13か国がオブザーバーとなっています。
2014年の会議で習近平主席は、「アジア新安全保障観」という概念を表明しました。「アジアの人民には相互協力を強化することにより、アジアの平和・安定を実現するだけの能力も知恵も備わっている」とも述べました。
筆者は、この「新安全保障観」をアジアのおける多国間安全保障のシステムとして、実効性のあるものにするのが、アジアの平和にとって重要と考えています。
日本はアメリカに遠慮してオブザーバーになっていますが、正式加盟国として招待してください。東南アジア諸国のうち未加盟のマレーシア、インドネシア、フィリッピンを誘って、アジア連合(共同体)の協議機関に格上げするのが良いと思います。
2.靖国問題などを外交カードに使うのはやめてください
地域連合の構築には関係国の相互信頼が不可欠です。一部の右翼を除いて、戦後の日本人は次の通り平和的、友好的で、かつ、穏健です。
① 日本人は過去の歴史を真摯に反省しています。
② 日本人は現在も、将来にわたっても、平和を愛する民族で、平和以上の価値はこの地球上にないと思っています。
③ 戦略的互恵関係構築のために役立つことは何でもやります。
貴国が過去を蒸し返して外交カードに使いすぎると、穏健な日本人の居場所がなくなってしまい、アジアにおける多国間安全保障の機運が遠のいてしまいます。
3.日本を国連の常任理事国に推薦してください
日本は平和憲法を持っている稀有の国です。貴国に次ぐ第3位の経済大国で、国連予算の分担率も10%以上を負担しています。現在、国連常任理事国は戦勝国の5か国で、戦後70年以上もこの体制が変わっていません。
国連の機能が期待された水準に達していない現在、日本とドイツを常任理事国に加えて、世界平和の実現に向かって、体制の大転換を図るべきではないでしょうか。日本とドイツは、21世紀の、世界の安全保障システム構築に大きな役割を果たせると確信しています。
過去の怨讐を超えて、日本にエールを送ってください。
習近平主席に告ぐ⑤ 民主化への道 Ⅰ [平和外交]
国家の目標は、国民の幸福の最大化であり、国民の安全で、豊かな生活環境の構築です。それには、民の声を聴く政治、すなわち政治の民主化が絶対に必要です。
貴国の一部である香港には、そんな市民社会が根付いており、模範として格好の存在であります。一国二制度の香港を中国流に染め上げるより、中国の方を香港流に直していく方が、国の平和、ひいては世界の平和につながっていくと思います。
平和を愛する日本人として、習近平国家主席に、貴国の民主化への道程について、下記の通り、いくつか提言したいと思います。内政干渉の意図は全くなく、友人のアドバイスと思って読んでください。
1.情報公開と報道の自由を本気で進めてください。
民主化の第一歩は情報公開です。貴国には「政府情報公開条例」がありますが、公開請求に対して「国家機密にあたる」などとして、ほとんどが情報公開を拒否され、国民の知る権利が奪われているのが現状です。最近も、「土壌汚染調査情報公開請求」への回答拒否がありました。国民を眠らせておく政策をとると、目覚めたときの反動が大きすぎます。
一方、報道の自由の擁護を目的とする国際組織「国境なき記者団」の最近の発表によると、報道の自由度ランキングで、180か国中、中国176位、北朝鮮179位、日本72位でした。さらに、当局に拘束・投獄されているジャーナリストの数は世界で348人に上り、中国はトルコに次いで2番目と報道されました。国営メディアを使った報道統制や、報道機関への規制や干渉は、徐々になくしていってください。
2.格差解消の政策をスピードアップしてください
鄧小平氏が1978年に「改革開放」の政策に転じ、「先富論」を発表しました。能力のある一部の人が先に豊かになり、経済発展の果実を貧しい人にも行き渡らせるというものですが、このトリクルダウンはいまだ十分ではないようです。
一つは、富裕層への増税で、経済格差解消を加速すべきです。自主自立する中産階級の増加が、民主化の基礎であると思います。
貴国には、もう一つ、都市と農村の間に身分的に大きな格差があります。身分制度を見直して、より平等な社会を作ってください。
働いて、稼いで、みんなが豊かになる社会が一番です。覇権による荒稼ぎで、国を豊かにするという誘惑には負けないでください。
次回、「民主化への道」の続きとして、国民の政治参加、地方分権、国有企業の民営化などについて述べます。
習近平主席に告ぐ ⑥ 民主化への道 Ⅱ [平和外交]
習近平国家主席に対し、貴国の民主化への道程について、提言の続きを述べます。
3.国民の真の政治参加を実現してください(コラム参照)
①郷級人民代表の直接選挙の活性化
郷級(日本の市町村クラス)人民代表は、住民の直接選挙で選出されています。選挙と言っても、立候補の自由はなく、中央の眼鏡にかなう人物しか立候補できない仕組みのため、有名無実の選挙になっています。有権者の意識も薄く、選挙公報も不十分です。憲法には選挙の規定がありますが、それを無視した違憲状態が続いております。
<<非選挙人に立候補の自由を与え、選挙公報を活発にして選挙人の意識の向上を図り、実のある選挙制度を確立してください>>
②上級人民代表の選出を間接選挙から直接選挙へ
全国級、省級、県級の人民代表は、ひとクラス下の人民代表による間接選挙で選出されています。立候補者も能力より、コネや思惑で選ばれたいるようです。
<<上級人民代表の選出は、間接選挙をやめて、直接選挙にしてください。民主政治の根幹である国民主権は、直接選挙から始まります。>>
コラム 1.中国の統治機構
中国の現行憲法は1982年に制定されたもので、82憲法と呼ばれていて、プロレタリアート(労働者階級)独裁と社会主義体制を基本理念としている。
憲法には、「国家権力を行使する人民代表(議員)は、人民の直接・間接選挙を通じて、民主的に選ばれ、人民代表は人民に責任を負い、その監督に服する」と定められている。
年一回開催される全国人民代表大会(立法議会)が、行政機関、人民法院、人民検察院を選出することになっており、三権分立制にはなっていない。
地方自治の制度としては、全国人民代表大会の下に、省、県、郷、それぞれの人民代表大会があって、階層構造となっている。
2.中国共産党一党独裁体制
中国共産党の最高指導機関は、5年に一度開催される中国共産党全国代表大会である。閉会中は大会で選出された中国共産党中央委員会が代行する。習近平総書記を中心とする7人の政治局常務委員が最高指導部を形成している。
軍事に関しては、中国共産党中央軍事委員会が中国人民解放軍を指揮する最高機関である。主席は習近平氏が兼務している。
習近平氏は国家主席、共産党総書記、人民解放軍主席の三つを兼務し、中国の核心と称されている。
習近平主席に告ぐ⑦ 民主化への道 Ⅲ [平和外交]
習近平国家主席に対し、貴国の民主化への道程について、提言の続きを述べます。
4.法治主義と三権分立を確立してください
貴国には憲法も、法律もありますが、適切な機能を果たしていない憾みがあります。
2017年3月開催の全人代において、最高人民法院の周強院長は、習近平主席が提唱する「依法治国」(法に基づく統治)の成果をアピールしたが、内容は下記の通り、法治主義や三権分立とは程遠いものでした。民主派の知識人から批判を浴びたのは当然であると思います。
●2015年に人権派弁護士を一斉拘束し、一部、国家政権転覆罪で有罪とし、これによって、「国の長期の安定と人民の安寧を保障した」と自賛しました。「人権派の活動を法によって厳しく罰し、断乎として政権の安全を守った」とも述べました。
●「司法の独立など、西側の誤った思想は断固拒否する」とし、「中国の特色ある社会主義的司法制度の優越性を守り、西側の司法とは別の道を歩む」とも述べました。
日本の最高裁長官に相当する人の発言としては看過できません。
① 法治主義の確立
法治主義は、独裁者の支配を否定し、国家権力の行使は議会が定めた法律によって行われなければならないとする政治システムで、三権分立がその核心となります。
習近平国家主席は「党の核心」と呼ばれるようになりましたが、核心と言うなら、それは習近平氏ではなく、法治主義の方であると思います。
<<「すべての人のまなざしに耐えうる」法と司法のシステムを作ってください>>
② 三権分立の導入
議会で法律を作る立法権、政府が法律に基づいて政治を行う行政権、裁判所が法律に基づいて裁判を行う司法権の三つが、均衡を保つことにより、権力の暴走を防ぐ仕組みが三権分立であります。
<<立法、司法、行政の責任と権限を明確にし、共産党中央による独裁的支配を是正してください>>
コラム カントの共和的体制と法治主義
カントは、個人の自由と平等が守られていて、共通の法に従う国家の状態を共和的体制と称した。
法は公開されることで、「すべての人のまなざしに耐えうる」ものとなる。特定の人たちだけを、特別扱いする法は「すべての人のまなざしに耐える」ことができない。
独裁国家は公平性と公開性が不十分で、カントの永遠平和の原理に反している。人口が14億人いても、人のまなざしを組み込んだシステムの力を使えば、統治は可能であり、国民の自由と平等を保障し、世界に平和をもたらす政治はできるはずである。
2016年9月の当ブログ「カントの永遠平和のために③ 法治のシステム」参照
習近平主席に告ぐ⑧ 民主化への道 Ⅳ [平和外交]
習近平国家主席に対し、貴国の民主化への道程について、提言の続きを述べます。
5.連邦制による地方分権を本気で進めてください
地方分権は、中央政府の行政権限を地方政府に移管することで、地方の実情に合った、顔の見える柔軟な統治を目指す政治制度です。地方分権は民主化への一里塚になると考えます。
中央政府は国防、外交、金融などに専念し、国民の生存権の保障と生活向上は地方政府による地方自治に委ねることになります。
貴国にとって、地方分権の成功のカギは連邦制導入と、公民社会(日本語の市民社会と同義)の育成であると思います。今回は連邦制について提案します。
① 連邦制の導入
貴国は56の民族からなり、人口は14億人で、33の行政区に分かれています。これを、下記コラム記載のとおり、東北、華北、華東、中南、西南、西北の6つの連邦に再編し、中央の行政権限をすべて移譲するのです。
各連邦の人口は平均すれば2.5億人で、インドネシア一国ほどの規模になります。
② 連邦制の長所
行政区の規模が拡大されることで、職員数、議員数の削減などにより、行政コストが削減され、行政効率の向上が期待できます。
それぞれの実情に合った地域づくりができるとともに、連邦間に競争原理が働いて、地域活性化、地方経済再生につながると思います。
地域住民の意識改革により、5億の眼を持って、役人の腐敗を許さない、自主、自立の行政組織に作り替えることができます。
③ 連邦制の短所
連邦政府の政策によっては、辺境地域の切り捨てが起こる可能性があります。
また、運営によっては、財政的な地域格差が拡大する恐れもあります。
コラム 33の行政区を6つの連邦に再編
東北 3 黒竜江省、吉林省、遼寧省
華北 5 河北省、山西省、内モンゴル自治区、北京市、天津市
華東 7 安徽省、福建省、江蘇省、江西省、山東省、浙江省、上海市
中南 8 広東省、海南省、河南省、湖北省、湖南省、広西チワン自治区、
マカオ特別行政区、香港特別行政区
西南 5 貴州省、四川省、雲南省、チベット自治区、重慶市
西北 5 甘粛省、青海省、陝西省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区
習近平主席に告ぐ⑨ 民主化への道 Ⅴ [平和外交]
習近平国家主席に対し、貴国の民主化への道程について、提言の続きを述べます。
6.健全な公民社会を育成してください
公民社会(日本語の市民社会と同義)とは、自由平等な個人が自立して対等な関係を構成する社会です。通常は、市民革命により、封建的な身分制を打破して成立する場合が多いと言われています。
貴国では、2011年2月の、共産党一党独裁を打破し、民主化を求める、いわゆる、ジャスミン革命が弾圧により、とん挫した経緯があります。
いまでも、政府の「維穏」と人民の「維権」の争いが続いています。維穏とは、政府が共産党独裁と既得権益を巧妙に守ること。維権とは、人民の「維持擁護合法権益」、すなわち、共産党支配に立ち向かうのでなく、合法的に権利を守る運動のことです。
人権尊重の立派な憲法を持ちながら、前文の「共産党の領導のもと・・・」の文言により、憲政は全く行われていません。法があるのに守られない、正義がない、国民がすっかり諦めてしまっている社会は健全ではありません。「近代国家は市民社会に依存しているとき、健全に機能する」と言った先人の言葉は本当だと思います。
健全な「公民社会」育成の処方箋は下記のとおりと考えています。
① 情報公開、報道に自由、言論の自由の徹底
② 所得格差、身分格差の解消
③ 選挙制度改革による政治参加の推進
④ 法治主義と三権分立の徹底
⑤ 地方分権の推進
民主化への道の最初のブログで、近代国家の目標は国民の幸福の最大化であると述べました。上記処方箋の一つ一つが、公民社会の育成→国民の幸福の最大化につながるのだと思います。革命を待たずに公民社会を実現するのは、習近平国家主席の決断にかかっていると思います。
コラム 市民社会と市民革命
市民社会は市民革命によって成立した。17世紀のイギリス革命、18世紀のアメリカ独立革命、フランス革命が代表例である。
市民革命により、封建的な身分制や領主制、ギルドなどが撤廃されて、人々の自由、平等などの基本的人権が保障され、主権在民が確立された。
近代市民たちは自由、平等な立場で商品交換関係を取り結び、主権の担い手として国政に参加するようになった。
日本の場合、明治維新の際も市民革命は興らず、敗戦を待って市民社会が成立した。中国民主化運動の経緯 [平和外交]
「中国の民主化への道」について5回にわたって提言してきたが、ここで、中国の民主化運動の経緯を整理しておこう。中国の民主化運動は、下記の通り3回あり、いずれも治安当局によって鎮圧された経緯がある。
1.北京の春
中国の民主化運動は1978年秋に起きた「民主の壁」運動に始まった。北京市西単区の「北京の壁」に掲載された壁新聞で、魏京生が共産党独裁の打倒と政治の民主化を訴えたもので、1968年の「プラハの春」にちなんで「北京の春」と名付けられた。
半年後の1979年3月29日、北京市党委員会は、集会・デモ・壁新聞を禁止した。魏京生は反革命罪で逮捕され、懲役15年の刑に処された。
鄧小平は、翌30日、四つの基本原則の再確認を宣言した。すなわち、「社会主義の道」、「プロレタリア独裁」、「共産党による指導」、「マルクス・レーニン主義と毛沢東思想」の四つである。
魏京生の逮捕と、「四つの基本原則」の宣言により、「民主の壁」(北京の春)運動は終息した。
2.天安門事件
天安門事件は、1989年2月の胡耀邦元総書記の死をきっかけに、政治改革を求める学生を中心とした抗議運動である。デモは次第にエスカレートし、5月には北京に戒厳令が敷かれた。6月4日、北京の通りに人民解放軍が軍隊と戦車を出して武力弾圧をおこない、多数の死者が出て民主化運動は終息した。
3.中国ジャスミン革命
民主活動家の劉暁波は、2008年に民主的立憲政治を求める「零八憲章」を発表して拘束されたが、服役中の2010年にノーベル平和賞を受賞した。これをきっかけに、2011年2月に、劉暁波の釈放と民主化を求めるデモをネットで呼びかけたのに対し、治安当局が武力を持って鎮圧を図り、多数の逮捕者が出た。チュニジアで長期政権を倒したジャスミン革命にちなんで、中国のジャスミン革命と言われている。
中国の民主化運動を成功させるにはどうしたらよいだろうか。次回、アジアにおける民主化運動の成功事例をいくつか取り上げる予定である。
コラム 開発独裁は長所より短所の方が何倍も多い
開発独裁とは、後進国の経済開発は独裁政権に任せた方が良いという言説で、中国の共産党独裁の正当性に使われている論理である。長所は強権発動による経済開発のスピードアップであるが、短所は、役人の腐敗、過剰生産・過剰在庫、経済格差拡大などかぞえきれない。農民から土地を廉価で買って、業者に数倍で売り、差額を山分けする共産党幹部の腐敗の構造が典型的である。
民主化の事例に学ぶ① 韓国 [平和外交]
アジアにおける民主化運動の成功事例として、韓国の場合を考察してみよう。
1.民主化運動の弾圧
韓国では、1979年10月に独裁者・朴正煕大統領が暗殺された後、全斗煥氏ら軍の一部勢力がクーデターを起こし、実権を掌握した。1980年5月、保安司令官であった全斗煥氏は、民主化を求め、学生デモが多発する光州に空挺部隊を投入して武力弾圧を図った。学生や市民に200人以上の犠牲者が出た光州事件である。同年9月に全斗煥氏は大統領に就任した。
2.民主化宣言の受諾
1985年の議員選挙で、大統領直接選挙を標榜する新韓民主党が躍進した。1987年に学生と市民のデモが多発し、100万人デモまで発生した。
全斗煥大統領は、同年6月、ついに、「民主化宣言」を受諾し、国民投票で憲法が改正されて、大統領直接選挙が実施されることになった。翌年2月、民主的選挙によって盧泰愚(ノ・テウ)氏が大統領に就任した。
3.民主化宣言の内容
民主化宣言は8項目からなるが、骨子は、人権保障強化、言論・教育の自由、政党活動の保証、地方自治実現などで、これによって民主政治の基礎が出来上がった。
4.民主化後の政治状況
盧泰愚(ノ・テウ)大統領のあと、金泳三(キムヨンサム)、金大中(キムデジュン)、廬武鉉(ノムヒョン)、李明博(イミョンバク)、朴槿恵(パククネ)と続いた。
大統領は重任禁止規定があって、1期で退任するが、任期中は不逮捕特権があって刑事訴追されないことになっている。
韓国の大統領は、本人または家族の任期中の不正行為などがあって、弾劾や訴追で退任後、不幸な最期を迎えた人がほとんどである。だが、軍事政権よりましである。
5.韓国の民主化に学ぶ
① 政党活動の自由の保証は民主国家の基本である。国民の多様な思想・希望・願いを代表する複数政党が組織され、選挙公約に基づいて政権を争うのが理想である。
② 公明正大な政治活動を保証するため、政治資金規正法を設けて、政党と政治家の 政治資金を監視できるようにすべきである。また、不正蓄財を防ぐため、政権担当閣僚の資産公開制度(配偶者含む)の運用も必要である。
コラム 政党の機能不全
韓国でも日本でも、政党の離合集散が激しすぎて、政治が機能不全をきたしているのではないかと思う。
原因は政治家本人の、こだわりや思い込み中心の政治活動になってしまい、国民の多様な思想・希望・願いに対する、分析も気づきも不十分なせいではないか
民主化の事例に学ぶ② フィリピン [平和外交]
アジアにおける民主化運動の成功事例として、フィリピンの場合を考察してみよう。
1.フィリピンのエドゥサ革命
マルコス独裁政権下の1983年、アメリカに亡命していたベニグノ・アキノ上院議員が民主化推進のため帰国し、飛行機を降りたとたんに射殺された。
1986年、妻のコラソン・アキノが大統領選に出馬、勝利したように見えたが、なぜか、マルコスの圧勝と発表された。
マルコス大統領は、直後の1986年2月、軍のクーデターと民衆の猛反発を受けて、ハワイに亡命。アジアにおける民主化の先駆けとなるこの政変はエドゥサ革命と呼ばれている。大統領就任から21年、戒厳令布告から14年目の出来事であった。
2.アキノ大統領の民主化政策
クーデター、市民のデモ、アメリカの介入によって政権を獲得した女性のアキノ大統領は、いわゆる「1987年憲法」を制定し、民主主義体制の強化のため、政治参加の拡大、人権保障の確立、司法改革などを行った。
1992年に大統領に就任したラモスは民主化にとって一進一退を繰り返した。
3.エストラーダが大統領と第二人民革命
1998年にエストラーダが大統領に就任したが、任期半ばの2001年、違法賭博献金、不正蓄財疑惑などのスキャンダルがもとで、大統領弾劾裁判が始まった。議員や市民による反大統領集会が開かれ、ついに、政権が崩壊した。第二人民革命と呼ばれている。
以後、大統領はアロヨ、アキノ3世、ドゥテルテへとつながっている。
4.ドゥテルテ大統領の超法規的殺人
ドゥテルテは、犯罪撲滅で国民の人気を集め、2016年6月、大統領に上り詰めた。就任後、警察と自警団を使って、1700人を超える麻薬密売人や麻薬患者を超法規的措置で殺害し、批判に対しては公権力で対抗した。民主政治の不確かさが心配である。
5.フィリピンの民主化に学ぶ
1987年に憲法が大幅に改正されたが、裁判官の独立性が、まだまだ不十分である。例えば、アロヨ大統領は、汚職事件で裁判官が大統領に有利な司法判断を出して、弾劾されたことがある。
大統領の違法な権力行使に対し、抑止する力が弱く、弾劾する側と、弾劾を阻止する側のつばぜりあいで、結局うやむやで終わるケースが多い。
三権分立、特に司法の独立が大きな課題である。
コラム 司法独立のポイント
政治化された従属的司法でなく、独立した司法制度を構築するポイントは下記
①任命権者は国民とする仕組み(国民審査制度など)② 国際司法裁判所の関与強化 ③裁判官・弁護士(家族を含む)の安全保障 ➃ 法執行の立場にある司法から、立法への意見具申
民主化の事例に学ぶ③ インドネシア [平和外交]
アジアにおける民主化運動の成功事例として、インドネシアの場合を考察してみよう。
1.スハルト政権の崩壊
スハルト大統領は石油資源を活用して経済開発に成功したが、軍の力を背景に不当な権力行使、暴力支配など恐怖政治を行った。
1997年のルピアの大暴落などによる経済危機を契機に始まった民主化運動によって、98年5月に、32年間にわたる長期政権を維持したスハルト政権は崩壊した。
2.インドネシアの民主化
インドネシアでは、憲法改正はすでの4回行われたが、国民主権、法治国家という大原則は織り込まれており、大統領、副大統領の直接選挙制も採用されていて、進歩的な憲法となっている。地方分権を進め、権力が分散したのも大きい。
大統領の任期制の採用、立法権制限、行政権限縮小、文民統制、弾劾手続きなどによって、大統領への権力集中の再発防止は適度に講じられている。課題は多いものの、インドネシアは民主化の成功事例の一つである。
3.少数民族独立運動の弾圧
東ティモール、アチェ、パプア、西パプアで、独立運動が続いている。インドネシア国軍や警察による、活動家への人権侵害が頻発しており、政権は人権侵害に対しする処罰に冷淡である。
4.国軍の不当ビジネス
インドネシア国軍は維持費を賄うためにビジネス主体となっており、権益拡大のため、しばしば権力の乱用を行っている。政権が見て見ぬふりをしているのも問題である。
5.インドネシアの民主化に学ぶ
① 大統領、副大統領の直接選挙制はわかりやすくてよい。
② 地方分権の推進は民主化成功への一里塚。少数民族にも自由を。
③ 国軍は国力にあった適正規模に縮小。ビジネスをやらせるのは不可。
➃ 国軍の文民統制の徹底。
コラム アジアの民主主義国
権威主義政治体制の崩壊から民主制への移行は、アジアでは、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、スリランカなどに見られる現象である。
民主化の事例に学ぶ➃ まとめ [平和外交]
アジアにおける民主化運動の成功事例として、韓国、フィリピン、インドネシアの場合を述べてきた。ここで、民主化の必要、十分条件をまとめてみよう。下図は民主主義国家の標準的な構成要件である。(クリックすると拡大表示できる)
① 国民主権と基本的人権
日本国憲法の前文に、「主権は国民に存する」と書かれているように、国民主権は基本的人権尊重と合わせて民主主義にとって必須である。
② 立憲主義
政府のすべての活動は憲法の規定の範囲内で行われなければならない。アジアには憲法があるが守られていない国がある。
③ 三権分立
法律を作る立法、法律に基づいて政治を行う行政、法律に基づいて裁判を行う司法が相互に独立していること。上下関係であってはならない。➃ 文民統制(シビリアンコントロール)
政治が軍事に優先し、軍人の暴走を防ぐ仕組み。防衛省内の背広組も文民である。
⑤ 地方分権
地方の政治は、権限も財源も地方自治体に任せること。中央集権の対語。
⑥ 政党活動の自由 一党独裁でなく、複数政党を認めて、活動の自由を保障すること。
⑦ 報道の自由
報道の自由、情報公開、言論の自由、表現の自由など、みな重要。
⑧ 議員選挙制度
主権を持つ国民が、立法をする議員、行政をする首相などを選ぶ仕組み
⑨ 裁判官任命制度
司法の独立が不完全な国が多く、大きな課題である。日本には最高裁判事の信任不信任を審査する国民審査制度があり、参考になる。
また、日本を含めて憲法裁判所を持たない国が多いが、必要である。
(図)民主主義国家の構成要件
民主化の段取り➃ 民営化 [平和外交]
中国の民主化を進めるため、政権側から見た段取りについて、どこから手を付けたらよいか、何回かに分けて考えてみよう。
6.国有企業の民営化
民主化の段取りの六番目は、国有企業の民営化である。民営化は民主化と深くつながっていて、避けては通れないテーマである。
①国有企業民営化の現状
現在中国には100社強の中央政府管轄の大型国有企業と、地方政府が管轄する15万社以上の中小国有企業がある。
2013年に混合所有制を導入し、民間株主に株の一部を開放したり、社員持ち株制を採用したりした。また2014年に「国有企業改革深化に関する指導意見」を発出して、合併や海外企業買収などによる、国有企業強大化を目指しているようだ。
中国共産党は、国有企業の管轄権限を手放さず、腐敗が減る気配はなく、根本的な改革には程遠い状態である。
②国有企業民営化の今後の施策日本の国鉄や郵政民営化のように、民間資本を100%導入して、徹底した民営化を断行すべきである(国防などの特殊な産業は除く)。そして、共産党幹部による、経営の支配、監督、指導はやめるべきである。勇気を出そう、恐れることはない。
③国有企業民営化の狙い市場メカニズムを利用した、自由な企業活動により、民間活力の向上、コスト削減、腐敗の撲滅などを目指す。
④国有企業民営化による期待効果共産党独裁から民主主義社会へのソフトランディング、腐敗の撲滅、国際ルール順守の体制づくりなどができる。そして中国は、世界平和の脅威ではなく、その守護神になることが期待できると思う。
コラム 国有企業改革の経緯
中国は改革開放後、市場経済の競争に負けて多くの国営企業が倒産した。所有権と経営権の両方を持つ国営企業を、所有権だけ国に残し、経営権は企業に移して、それを国有企業と呼ぶことにした。
1990年代後半、朱鎔基首相が20万社あった企業を半分に減らし、3千万人のレイオフを断行した。しかし、1998年に江沢民主席が国有企業の人事に対し、党の関与を強める変更をし、党有企業となったため、腐敗の温床となった。 習近平主席は「虎もハエも叩く」反腐敗運動を断行した。しかし、腐敗を監督する党の指導力を高めるとしたため、市場のメカニズムにゆだねる民営化から遠ざかる結果となっている。
「共謀罪」法案を解剖する [平和外交]
「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ、テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が、衆院を通過し、参院で審議中である。ここで、いわゆる「共謀罪」法案を解剖してみよう。
1.組織犯罪処罰法改正案の内容
●今回の組織犯罪処罰法改正案は、過去3回廃案となった共謀罪と異なり、テロ組織や麻薬密売組織などの「組織的犯罪集団」に適用対象を限定している。
●具体的な「計画の合意」と「準備行為」を処罰の要件としている。
●犯罪の「実行」を処罰の対象としている現行刑法から数歩踏み出した法案である。
2.組織犯罪処罰法改正案の論点整理
論点 |
賛成意見(与党) |
反対意見(野党) |
条約(注1)締結に必要か |
現行法では条約の義務が果たせない |
現行法で締結できる |
一般人も処罰の対象になるか |
一般の人は告発の対象にならない |
組織的犯罪集団の要件があいまいで、一般人も対象になりうる |
表現の自由の 制約 |
プライバシーや表現の自由を制約しない |
プライバシーや表現の自由を制約する恐れがある |
内心の自由の 侵害 |
準備行為を要件に加えたので、内心の自由を侵さない |
準備行為を認定する際に、内心の自由を侵し、監視社会になる恐れがある。 |
国連人権理事会特別報告者の書簡への対応 |
人権理事会を代表していない勝手な報告であり、内容にも誤解がある |
報告者の懸念はもっともで、解消すべきだ |
世論の動向 |
日本商工会議所会頭が、テロ多発の現状から、法案の早期成立を要望 |
「国際ペン」(注2)が、法案は日本の表現の自由とプライバシーを侵害すると声明 |
注1 国際組織犯罪防止条約 注2 作家、ジャーナリストの国際団体
3.安倍首相の真の狙い
特定秘密保護法や、安全保障関連法を強行採決し、今また、組織犯罪処罰法改正案を強引に通し、憲法改正ももくろんでいる。
安倍首相の真の狙いは、戦後レジームから脱却し、天皇中心の伝統に輝く、美しい日本を取り戻すことではないか。
平和外交による安心供与政策をテンからあきらめて、力による抑止政策にうつつを抜かしている。国民を権力に逆らわない羊に育て、いつか来た道に踏み入ろうと、手を尽くしているのではないか。
4.筆者の意見と提案
筆者も、自由と安全の両立のために、国際組織犯罪防止条約の批准は必要と思う。2003年以来、14年も批准ができなかったのは、政府・法務省の不作為であり、明らかな怠慢である。
国連の英文ガイドラインの解釈に疑義があるなら、組織犯罪処罰法案の改正ありきでなく、法案の要件について、国連担当者にただすなり、表現の自由のために国連を動かすなりの努力をすべきである。
コラム 国際組織犯罪防止条約について
2000年国連採択、2003年発効、締約国187国。日本は2003年5月に国会の承認を得たが、国内法の適応要件に疑義があり、14年間も批准していない。
安倍首相の憲法改正案は不純 [平和外交]
自民党は安倍首相の意向に沿った憲法改正原案の年内取りまとめを決めた。衆参で2/3の議席を持つうちに、遮二無二改憲の実績を残そうとしているようで、動機が大変不純である。
1.安倍首相の憲法改正原案と問題点
憲法改正原案の内容 |
安倍首相の意図(想定) |
問題点 |
憲法九条に第3項を設け、自衛隊の存在を明記する |
① 個別的自衛権に加えて、集団的自衛権を持つ日本は、強力な武力を持つべきだ ② 公明党の加憲の考えにも合致する |
① 軍拡競争がひどくなる ② 九条2項の戦力不保持と自衛隊の不整合が、ますますあぶりだされる ③ 平和主義の看板を汚し、 平和外交の芽を摘む |
高等教育(大学)を無償化する
(国公立私大の授業料無償化で、3.7兆円の財政負担増) |
① 国民の歓心を買うことで、改憲の賛成票を増やせる ② 維新の党の公約に寄り添うことができる |
① 財政負担が過大 ② 無償化は憲法に書く必要はない(旧民主党は高校無償化をやった) ③ 無償化するなら、大学より、保育園、幼稚園の無償・全入の方が効果的(費用1.2兆円) |
2.平和憲法を守ってアジアに平和を
東アジアの安全保障環境が厳しくなっている現在、自衛隊の存在を憲法に明記し、強力な自衛能力を持ちたい気持ちは理解できる。
しかし、よく考えてみよう。安全保障環境の悪化には原因がある。下記のような平和外交で、悪化の原因を取り除くのが先ではないか。
①平和憲法を世界に広めよう
日本の平和主義憲法は世界に誇れる理想の憲法である。現状追認の改憲をするより、現状の安全保障環境の方を、粘り強く変える外交努力をしよう。下記の当ブログ参照 http://gaikou-ni-monomousu.blog.so-net.ne.jp/2016-03-10
②対中国外交の正常化
日米同盟一辺倒の外交から、アジアの一員として、周辺国に寄り添う外交に転換し、まず、中国との関係を正常化しよう。
習近平政権も4年目に入り軟化の兆しがある。 下記の当ブログ参照
http://gaikou-ni-monomousu.blog.so-net.ne.jp/2016-04-01
関係国を説得して6ゕ国協議を再開し、北朝鮮と対話して、まず、暴走を止めよう。核放棄は対話の条件にせず、対話の成果にすべきだ。